「パートナーと挿入を伴うセックスができない」
「ダイレータートレーニングがうまく進まない」
「婦人科の内診が怖くてできない」
病院の検査で問題がない、または既に完治しているのに性交痛を感じたり、思うように性行為ができない場合、「気の持ちよう」と片付けられることがあります。何らかの理由でセックスや性的な活動がスムーズにいかない原因は心理的、身体的、パートナーシップの問題など多岐にわたります。身体的な部分の治療が終わっても、心理面、パートナーとの関係など他の問題が未解決だと課題が残ったままになることも。
こうした課題は専門家のサポートを受けることで解決の道が開けることがあります。今回は性機能障害に性科学の視点でアプローチする「セックスセラピー」に特化したカウンセリングルームEsolve(以下エゾルブ)のオーガナイザー・アドバイザーの泌尿器科医・木村将貴先生にエゾルブの紹介ならびに同ルームが行うセックスセラピーについてお話ししてくれました。
目次
お話をしてくれた先生
泌尿器科専門医 木村将貴先生
性機能に特化した専門家として男女の性に関する様々な問題に取り組んできました。大学病院での経験から、一人一人に充分な時間を割くことが難しい現状を改善しようと思い、より個人に寄り添ったアプローチを提供したいと考え、公認心理師やコメディカルとともに連携するカウンセリングルームEsolveを立ち上げました。
日本泌尿器科学会認定 泌尿器科専門医
日本性機能学会認定 性機能専門医
日本性科学会認定 セックスセラピスト
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医
医学博士
【所属学会】
日本泌尿器科学会、日本性機能学会、日本性科学会、日本生殖医学会
カウンセリングルーム Esolve
公認心理師・助産師・看護師・薬剤師、そして性機能障害の専門医がチームとなって性機能に特化したカウンセリング、セックス・セラピーを提供。性科学に基づき、交流分析という心理学パーソナリティ理論を応用してクライエントの心理的・性的な背景を探ります。パートナーとの性的コミュニケーション、女性・男性の性機能問題を解決していきます。
エゾルブには女性のカウンセリング担当者もいらっしゃいます。今回一緒にお話しをしてくださった助産師でもある正木百合さん。
病院やクリニックでカバーできない部分をサポート
性機能障害(何らかの理由でセックスや性的な活動がスムーズにいかない)には様々な原因がありますが、心理的な原因の性機能障害に悩む方は、今まで性に関して健全な反応を経験したことがなく、さまざまな負の感情を抱えています。性を楽しむという感覚がわからないことも多いです。それらのマイナスの感情を解放し、ポジティブな方向に導くことが治療として大切です。
そこでエゾルブでは、性機能に特化したカウンセリングを提供しています。私は泌尿器科医で性機能障害(何らかの理由でセックスや性的な活動がスムーズにいかない)の治療に携わっており、大学病院での経験から、医学的治療だけでは対応しきれない、ようは強い薬でも治らない患者がいることを認識しました。そういった患者は心理的な理由で性機能障害に悩んでいます。そこで心理面に強い公認心理師の道場さんと二人で共同プロジェクトを立ち上げ、セックス・セラピーを通じて、心理的アプローチで男性と女性の性機能障害の治療を「補完できる」ような場をつくりました。
セックス・セラピーと一般のカウンセリングとの違い
セックス・セラピーとは性科学に基づいた心理療法です。性機能障害の原因は心理的、身体的、パートナーシップの問題など多岐にわたります。基本的にカップルで一緒に受けるのが一般的ですが、単独で相談に来られる方もいらっしゃいます。
一般のカウンセリングは感情面を深く掘り下げることがありますが、セックス・セラピーは行動療法と呼ばれる、行動を通して感情面を変化させていく治療法を使って性機能障害を改善していくことに焦点を当てています。セラピーの過程でカップル関係の調整や心理カウンセリングも行われることはありますが、あくまで心理カウンセリングは補助的な役割を果たします。この点がセックス・セラピーと一般のカウンセリングとの違いです。
行動療法の進め方
エゾルブでは日本性科学会で論文発表した、性科学に基づいたオリジナルの行動療法(ステップ1から4で構成される段階的な行動療法)を活用しています。その行動療法では、まずは勃起や射精を目指さず、肌と肌のふれあいで心地よさと安心感を得ることが目標です。ステップを踏んで徐々に進めていき、カップルで感情を共有しながら調整していきます。負の感情であった性行為を学習し直すプロセスなので、時間がかかります。
カップルカウンセリングとパートナーシップの調整
性交痛や挿入障害の原因にもパートナーシップの問題が潜んでいることがあります。その解決方法として、東大式エゴグラム(一種の性格診断で56項目のアンケート形式)を用いて簡単な性格判断を行い、交流分析と呼ばれる手法を用いて、適切な関係性を構築していきます。カップルの関係性が悪いと、そもそも行動療法を開始出来ない場合もあります。カップルで一緒にカウンセリングを受けることで、カップル間の溝を埋めつつ、行動療法を提示していきます。
セックスレスの問題に客観的にアプローチし、性格や関係性に合った解決策を見つけることが重要なんですね。交流分析の手法を用いることで、カップルの関係性が適切なものになり問題の解決に向かっていくことがわかりました。
挿入障害へのアプローチ
挿入障害(ペニスの挿入を受け入れられない状態)の治療には時間がかかり、ドロップアウトも多いです。ダイレータートレーニングと並行して、不安に少しずつ慣れていく系統的脱感作療法というアプローチを取り入れることで改善が期待できます。ダイレーターを見るのも苦痛な人には無理にトレーニングは進めません。クライアント一人一人に合わせて、カウンセリングを重ねながら、その人のあったペースで行動療法に移行していきます。ダイレータートレーニングを受けないことを決めていても、徐々に進んでいく中で自らトレーニングを始めたいという方が多いです。
性嫌悪に関する相談
性嫌悪(性的な雰囲気になることや性的な接触を極端に嫌うこと)に関する相談が増えています。性嫌悪には「生来型」と「獲得型」があります。「生来型」というのは、性に対する嫌悪感が初めから存在する人を指します。一方、「獲得型」は、元々は性に対してポジティブなイメージを持っていたものの、ある出来事(例:婦人科の内診の痛みなど)をきっかけに、セックスを恐れるようになった人を指します。生来型の人は、ペニスの挿入を受け入れることができずセックスができない方が多い一方で、獲得型の人は、性に対するネガティブな体験から負の学習をしてしまい、相手が変わってもその影響が残ることがあります。
性嫌悪症へのアプローチ
性嫌悪症の治療には、曝露療法と呼ばれる治療法が一つのアプローチとして用いられることがあります。曝露療法というのは、患者が悪感を感じる対象や状況に、危険を伴うことなく直面させることで、それらに対する嫌悪感を克服しようとするものです。
性嫌悪症の場合も最終的には、段階的に行動療法を導入していき、肌と肌のふれあいから性器への接触まで導いていくことになります。その際には、決して無理をせず、時間をかけて進めていきます。
男性の性機能障害への対応
最後に少しだけ男性に関する話をしておきます。挿入障害のパートナーを持つ男性が、心因性ED(心理的な原因のあるED)や腟内射精障害(腟内での射精が困難な状態)になることがあります。その場合セックス・セラピーが有効です。心因性EDの場合、性的不安が強く興奮が起こらないため、PDE5阻害薬という種類のお薬を飲んでも効かない人が2割ぐらいいます。心因性EDに対しては、お薬とセックス・セラピーを組み合わせると、よりお薬の効果や満足度が高いと言われています。カップルで行っていく行動療法を通して、性的不安を取り除き、勃起や射精へのプレッシャーを和らげることが重要です。
心身の健康につなげる、セックス・セラピー
セックス・セラピーは、個々の目標や課題に合わせて、ゆっくりと進められるプロセスです。改善のゴールは人それぞれです。例えば、妊娠は望んでいないけれども、婦人科の内診を受けられるようになりたいという方や、他者が性的なことを話している際に、自分の中で嫌な思いをしないぐらいになりたいという目標を持つ方もいます。それぞれの方の目標を伺いながら進めますので、セックス・セラピーを通じて自分の健康レベルを向上させることが期待できます。もし悩んでいたら、ぜひ相談にいらしてください。
まとめ
男女ともに性機能障害の原因は心理的、身体的、パートナーシップの問題など多岐にわたり、単に薬物療法や医療的なアプローチだけでは不十分であることが指摘されました。セックス・セラピーでは、クライアントの話を丁寧に聞き、行動療法を通して徐々に問題に気づかせ、カップルで取り組むことが重要とされています。また、本文にはありませんが、焦ると良い結果にはつながらないようです。長期的な視点をもち、完治よりも改善を目指すのが良いとされているそうです。長い間傷ついた心身を労りながら少しずつケアするつもりで取り組むといいかもしれません。
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性機能障害:身体的な機能に異常があり起こるものと(器質性)、身体的な機能には異常は見られないが、心理的な要因が原因となり、起こるもの(心因性)がある。心因性で女性のオルガズム障害、性的興奮、性交疼痛、腟けいれんなどが、男性の場合、勃起障害や射精障害が生じる事がある。