「性科学」の知見が性の健康を推進する

「性科学」の知見が性の健康を推進する

ふあんふりーは、性交痛(性交時の痛み)を健康問題と捉えています。その背景にあるのは「性の健康」という考え方。では、性の健康とは何なのでしょうか?

本サイトの医療総監修者であり、「世界性の健康学会」や「日本性科学会」等でも活躍している産婦人科専門医である早乙女智子先生にお話を伺う対談シリーズの第2回。
(聞き手:思春期の性の諸問題に向き合い、同じく「世界性の健康学会」等にも参加してきたLink-R・柳田正芳。ふあんふりー運営者のひとりでもあります)

こちらの記事の基になった、この対談。
上記記事では書ききれなかったお話を、コラムとして連載していきます。今回は、人間の性を科学する「性科学」の知見が性の健康を推進するというお話です。
前回の記事はこちら

科学的な知識で捉え方が変わった大学生

柳田

活動していると、性に関して様々な課題を抱えた人に会います。

早乙女

課題を抱えてしまうのは、多くの場合、性に関する知識がないからではないかと思います。たとえば、いま私の手元にあるこの性科学の本には、有名なオーガズムの図が載っています。以前、大学生に向けてこの本に書いてあるような人間の性反応やオーガズムについての話をしたことがありました。終了後の感想文に「僕はもっと彼女を大事にします」と書いてきた男子学生がいました。私は「メカニズムとして男性にも女性にもそれぞれこういう性反応があるから、ちょっと濡れてきたくらいで挿入しちゃダメなんだよ」という話をしただけです。

柳田

その講義へのリアクションが「僕はもっと彼女を大事にします」だったのですね。

早乙女

乏しい知識でやっていた自分の行為が彼女を傷つけていたかもしれないと彼は気づいたわけです。

柳田

すごく重大な気づきですね、それ。

早乙女

性に関する知識があれば人の考えや行動が変わる好例だと思います。

編集部note

性反応の話

セックスは、興奮期→高原期→オーガズム期→消退期という4つの段階に分かれています。女性の興奮は、個人差はあるものの、視覚や聴覚以上に接触刺激によって高まるとされているため、十分な接触刺激によって濡れてからでないと挿入時に痛みが出る場合があるのです。

早乙女

ほかの学生さんからは「高校の時に知りたかったです」というコメントもありました。たしかに、男女の性反応がどのようなものかを習う機会はありませんよね。高校生くらいの時にこの性反応の話を教えないのはなぜなのだろうかと思います。性交痛があるからセックスは嫌いだ、嫌いだからあまりセックスをしない、あまりしないから妊娠しにくい、妊娠しにくいから不妊治療に通います、という人はたくさんいます。少子化対策というなら、こういう知識こそもっと広めていったほうがいいと私は思います。

柳田

おっしゃる通りですね。

性の豊かさを知らずして性の健康は無い

早乙女

「セックス楽しいよ」と伝えても「私はいいです」と言って終わってしまう人もいます。それが性嫌悪(「これからセックスをすることになるかもしれない」という状況になると拒否感に襲われ、セックスを拒絶するほどの不安や恐怖を感じること)ならば仕方ないですが、単に知識が無くて「セックスなんてこの程度だろう」と思って「私はいいです」という人もいます。食べ物で例えるなら、鍋で炊いた生炊けのお米を食べているような感じです。今の時代、炊飯器で炊いたらすごくおいしいお米を食べられるはずです。にもかかわらず「お米って水に入れて火にかけるんですよね?」という原始的で知識の乏しい世界観になってしまっています。もちろん、技術があれば鍋で炊いても美味しいお米は炊けますが、その技術を持ち合わせていない方もいますよね。炊飯器の存在や鍋で美味しく炊く技術を知らなければご飯のおいしさが分からないように、性の豊かさを知らずして性の健康はありません。

柳田

食べ物に例えると分かりやすくなりますね。「性の豊かさを知らず性の健康は無い」というお言葉、本当にその通りだと思います。

早乙女

単に生きていければいいという話ではなく、もうちょっと健康に生きませんか?という話をしています。健康に生きるということを食べ物で考えれば、食べた後は運動しよう、血圧を計ってみようなど、知識をつけることでやれることが色々あると思います。一方で性の場合は、どういうわけかその手前に「愛しているから」という不規則ワードが入ってくることがあります。「愛しているから気持ちいいはずだ」と。愛していても知識が無ければ痛みのあるセックスになる場合はあります。

柳田

「知識が無ければ痛みのあるセックスになります」というのは、先ほどの性反応の話に通じますね。

性に関する知識や情報を得る機会がなかなかない

早乙女

男性はマスターベーションの経験を積み重ねて自分のことが分かっている人が多いです。女性もマスターベーションの経験を積み重ねて自分のことが分かっていれば、男女のカップル間でのセックスをしやすいと思います。そうでない場合は「どうすれば気持ちいいの?」と聞かれても、よくわからない、痛い、くすぐったいとなってしまいます。その場合にふたりの関係を築いていくためには色々な工夫やそれなりの知識が必要になります。そういった知識を得ようと思う時に、料理の場面ならレシピ本を見て情報を得ますよね。性の話の場合は適切な情報がまとまっていないんです。

柳田

そういった知識を届けるのが性教育の役目ということになりますね。

早乙女

そうです。そして私自身は大人に性教育をしていきたいと思っています。私は産婦人科医なので、妊婦検診の時が大人への性教育のチャンスだと思っています。その時に「妊娠中でも産後でもセックスはできますよ。産後のセックスはそれまで以上に楽しいですよ」といった話をしています。大人になっても性反応の話を聞いたことがないまま、「セックスってこんなものかなと思ってやっていました」という人を減らしたいです。そのために知識をバージョンアップできる機会を作りたいのです。炊飯器で炊いたお米の美味しさを知らないで一生終わるというのはあまりにも悲しくないですか?

柳田

そう思いますが、どこに行けば情報を得られるのかということ自体が分からないですよね。

早乙女

それなりの情報はもう既にあるけれど、集めて適切な人に配る作業ができていないのだと思います。ヒントは色々なところにあって、オリエンテーリングのような、自分で集めないと分からない状況になっているのではないでしょうか。そんなゲームのような話では本来ないと思うのですが。だから私は体系的に「性科学というものがあって」という話をしていきたいと思っています。


今回は人間の性を科学する「性科学」の知見があることで性の健康が推進されるという話でした。次回は、性の話題というと「性=生殖」と捉えられがちだけど…?というお話です。
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