性交痛がつらいという現実に一石を投じてくれる海外の性教育の考え方

20代の性交痛はカップル間のコミュニケーションがうまくいっていないから説。
20代の性交痛はセックスに関するある知識が不足しているから説。

婦人科で問題がない性交痛に関して考える中で、ふあんふりーが考えた2つの仮説です。

この記事では、「カップル間のコミュニケーションがうまくいっていないから説」に関して取り上げます。

コミュニケーションについて習う機会の少ない日本

自分は何が好きか。どうしたいのか。何をしてほしいのか。
こういうことを(カップル関係に限らず)人に伝えることができますか?
伝えてもらえた場合、どんなふうに対応しますか?

自分は何が好きか。どうしたいか。これを自分で理解していることってとても大事なことですが、自分のことを分かるって実はとても難しいこと。それを他人に伝えるのはもっと難しいこと。ちょっとした訓練がいることでもあるんです。

自分のことを分かって、人に伝える。これができる人同士が付き合わないとカップル関係がうまくいかない場面もあります。でも日本では習うことがないですね。

海外では習う機会があるみたいです。
そこで今回は、その辺りの事情に詳しい方にお話を聞きました。

お話を聴いたおふたりのこと

福田和子さん
福田 和子(ふくだ かずこ)さん

国際基督教大学入学後、日本の性産業の歴史や公共政策を学ぶ。在学中、スウェーデンに1年間留学。日本における、女性の人生の選択肢を狭める限られた避妊法や性教育の不足を痛感し、2018年5月、『#なんでないのプロジェクト』をスタート。2019年8月から再びスウェーデンに留学し、現在ヨーテボリ大学大学院で公衆衛生を専攻中。2020年、国際的にジェンダー平等を目指すSheDecidesムーブメント、Women Deliverより世界のSRHRヤングリーダーに選出される。世界性の健康学会(WAS)Youth Initiative Committee委員。

渡辺 大輔(わたなべ だいすけ)さん

埼玉大学基盤教育研究センター准教授。博士(教育学)。一般社団法人“人間と性”教育研究協議会幹事。主な著書に、『マンガワークシートで考える多様な性と生』(子どもの未来社、2019年)、『多様な性ってなんだろう?(中学生の質問箱)』(平凡社、2018年)、『いろいろな性、いろいろな生きかた』(全3巻、監修、ポプラ社、2016年)、『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』(共訳、明石書店、2020年)など。

おふたりはユネスコなどの国際機関が共同でまとめた「包括的セクシュアリティ教育」というものを日本語に翻訳して紹介してくれたチームのメンバーなのです。

包括的セクシュアリティ教育。性教育の国際的なスタンダードとなる考え方で、日本語訳は『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』という本にまとめられて出版されています。

明石書店

20代の70%が性交痛を経験

ある調査によると、20代の女性の約70%が性交痛の経験があるそうです(ジェクス株式会社『ジャパンセックスサーベイ2020』)。

そのことについて、福田さんはこんなふうに言います。

福田さん

私のまわりを考えても現実とかけ離れている数字とは思えず、こういう数字が実際に洗い出されてそれを変えていかないと、という話にすごく共感しました。

具体的にはどういうことなんでしょうか?

福田さん

「痛いけど言えない」「どうしたらいいかわからない」「でもパートナーだし、そういう触れ合いが全くないのはどうかなと思うから、結局受け入れているけど、痛い」みたいな声を何回か聞いたことがあります。

「痛いけど言えない」
「カップルだからセックスはあったほうがいいと思うから受け入れている(けど痛い)」
なんだかつらくなる声です…。

福田さん

最近はジェンダーの問題などが社会で言われるようになって、若い人の中で意識が変わっているようなことが言われつつ、セックスのことになると、まだまだ変わったとは言えないんじゃないかと思います。

そんな現実に対して、海外ではこんなふうに考えて取り組まれているというお話を渡辺さんが聴かせてくれました。

渡辺さん

ヨーロッパの性教育の指針(スタンダード)では、0歳から始めるものもあるんです。ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】」(以下、「ガイダンス」)では、5歳の頃からは「体の感覚を言葉にしてみよう」とか「いろんな表し方があるよね」「人によって言い方が違うよね」「感じ方が違うよね」という学習を積み重ねていきます。そのなかで性に関心を持つのが悪いことではないし、むしろ興味を持つことはいいこと、ポジティブなことというふうに伝えていきます。

5歳の時から自分の言葉で伝えるスキルを身につける学習をするんですね。そして性に関心を持つことはポジティブだと伝えていく。まさに、自分のことを分かって、人に伝える学びですね!

渡辺さん

その積み重ねがあることで、パートナーができたときにどういうセックスがいいのかお互いに話し合えます。話し合うことはいけないことではない、むしろそっちの方がポジティブなんだということに繋がってくる。そういう学びが必要なんだと思います。これは性のことだけではなくて、生きること全てに関わることだと感じます。

最初に同意をもらえばそれでいい?

性交痛は、セックスには同意していても、「この体位はやめて」「もっとゆっくり動いて」と思うことがよくあると思います。そう考えると、最初に同意する(OKと言う)だけでは十分とは言えなさそうです。

福田さん

「同意」や「自分の気持ちを伝える」ということは「ガイダンス」のいろいろなパートですごく描かれていて、恋愛関係だけではなくいろんな人間関係のなかで相手に伝えるうえでどういった事が阻害要因になるかということを、何度も学べるようになっています。

包括的セクシュアリティ教育の中でも「同意」することや「自分の気持ちを伝えること」は何度も登場して大事なことだと強調されているんですね。

福田さん

また、ここは私の意見ですが、「性的同意」は最近少しずつ浸透してきていて大事だよと言われてきていると思いますが、ただ相手からY E Sを貰えばいいということではないと思うんです。本当に対等な関係性のなかでY E S/N Oを言えているわけではないケースもあって、不平等な関係性の中で言われるY E Sは本当のY E Sではないのに、性的同意という言葉だけが一人歩きすると、「だってもうYE Sって言ったから、いいじゃん」って終ってしまうのではないかと思います。

本当にそうですね。セックスをすることに対してはY E Sといったけれど、これはしてほしくない、もっとこうしてほしい。そんな場面はたくさんあると思います。

福田さん

「ガイダンス」の中でも言われていますが、そもそもY E S/ N Oの前にどれだけ対等な関係が出来上がっているか、対等でなければ立場の強い人が言いやすい状況を作っているということも出てきます。性的同意の前提に、人間関係をいかに作れるかがもっと注目されていいんじゃないかと考えています。

人間関係をいかに作れるか。本当にそうですね。ふあんふりーでもよくカップル間のコミュニケーションが大事ということを言っていますが、コミュニケーションがいいものになるにはふたりの関係性がしっかりとできていないといけませんね。日本ではそういう話はあまり性教育の中に出てきませんが、海外では大事なものとして丁寧に扱われていることが分かりました。

「お互いが幸せになれる同意」という国際的な流れ

渡辺さん

「ガイダンス」の中では「同意」は、「同意、プライバシー、からだの保全」の項目に入っています。この項目(トピック)は「暴力と安全確保」という大項目(キーコンセプト)の中に入っているのですが、この大項目自体が改訂版のガイダンスから新たに入ってきたものなんです。2009年に出たガイダンスの初版にはありませんでした。もちろん中身としては散りばめられていたんですけど、この10年で、暴力や同意ということも独立した項目として立てなきゃダメだよねというのが、国際的な流れです。

福田さん

同意のところもただ「同意は大事ですよ」と書いてあるのではなく、文章を読むと「健康で喜びのあるパートナーと合意した上での性的行動のためには、同意は不可欠である」「性的行動をとるときには、喜びを感じられるべきであり、自分の健康やWell-Beingに対する責任が伴っている」

というように、そもそも性的同意というのは喜びを感じられるべきものというふうに書かれています。日本にはその前提がそもそもない。特に女性にはないのかなというところがあります。

「そもそも性的同意というのは喜びを感じられるべきもの」という言葉に驚きです。日本的な感覚では性的な話と喜びや楽しさが結びつくと「いやらしい」「はしたない」と感じられがちです。

福田さん

スウェーデンにいてすごく感じることは、「セックスってハッピーで楽しくって当たり前のものだよね」逆に「ハッピーじゃなければ、する意味なくない?」という感覚をみんなが持っていることです。そもそも性的行動は喜びを感じられるべきということが知れ渡らないと、どうしようもない。お互いが幸せになれる同意が生まれない。

日本だと女性が性的にポジティブだったりオープンだったりするとすごくネガティヴに捉えられがちだから、積極的に自分がどう思ってるとか、これがしたいというのがすごく難しい気がします。

セックスはお互いがハッピーじゃないとする意味がないという前提で考えるスウェーデンと、女性が性的なことを言うとネガティブに受け取られる日本。こんなに違うのかと感じます。

「嫌だ」だけではなく「こうしたい」「こうしてほしい」を伝えることが大事

福田さん

国際的に「N OというだけじゃなくてY E Sを言える教育をしていこうね」「N O N O N Oではなく自分が望むものに積極的にY E Sって言える関係性がいいよね」となっています。お互いに望むものを一緒に構築して積極的な関係性が作れるようにというのが潮流としてあって、実際ガイダンスの中にもN OだけでなくY E Sをどう伝えるか実際にやってみましょうというのが5歳からあったり、自分が不快だと思っていることをどう相手に伝えるか5歳からあったりするんです。

NOは「嫌だ」「やめて」で、YESは「こうしたい」「こうしてほしい」。「やめて」というだけではなく、「こうしたい」を伝えていく学習を5歳からしているんですね。

福田さん

それがすごい大事で、その喜びを感じられるべきと思えたとしても、それを実践する、相手に伝えるという時に「女子だったら積極的ではないべき」というジェンダー規範に邪魔されてしまうと思うので、それに気づいて排除していく。その上で自分の気持ちの伝え方を練習するというのがすごい大切で、だからそう考えると性行為はハッピーなものでいいんだよっていうものが前提としてないと、いろんなものがうまく進まないのではないかと思います。

自分がどうしたいかを自分でわかっていることと、それを伝えることって別物ですからね。「これを伝えたい」と思っても、「そんなこと伝えるのは良くない」という社会の雰囲気があると、伝えることをためらってしまいますよね。だから、「セックスはハッピーなものでいいんだよ」という社会の雰囲気は必要だというお話、すごくよく分かります。

個々人が喜びを感じるために想いを伝える

福田さん

そういう意味でどうやったら自分の想いを伝えられるのか日ごろ練習するのが大事だと思います。根本的には「セックスは義務だよね」と思い始めたらハッピーのために話すとはならないので、もっと喜びを感じられるものでいいんだよということが伝わったらいいし、ガイダンスも基本的にはそういう立ち位置。公衆衛生を達成するよりも個々人のWell-Beingの達成ガイダンス。

「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」が目指している最大のゴールはひとりひとりの人の幸せを実現することなんですね。だから、セックスはハッピーなものでいいし、そのハッピーなもののために自分の想いを伝えることが大事。すごく勇気をもらえます。

福田さん

いろんな規範や社会の中で培われた期待が対等な関係性や自分の思いを人に伝えることを阻害しているというのは、「ガイダンス」の中でも触れられています。「ガイダンス」が教えてくれているのは、自分の気持ちを阻害しているものに気づいて、それを踏まえて自分の気持ちを伝えられるようすることなんじゃないかと思います。

社会の雰囲気って目に見えない手でも触れないものなのにすごい力を持ってますからね。「年上の男の人」と「年下の女の人」がお付き合いした場合、対等な関係性のはずなのに、年上の男性のほうが強くなったりする。そういうことに気付いたうえで自分の気持ちを伝えられるようにすることが大事だっていうお話、すごく分かりました。簡単にできることではないと思いますが、少しずつ訓練を積み重ねてできるようになっていけるといいですね。

想いを伝える練習をしよう

日本では「セックスが痛いけど言えない」という20代女性が少なくない一方、ユネスコをはじめとした国際機関では「体の感覚を言葉にしよう」「性に興味を持つことはポジティブなこと」として学習するという話がありました。また日本でも最近「性的同意」という言葉が話題になっていますが、対等ではない関係性のなかで出たYESは本当のYESではないなど、デリケートです。同意は「嫌だ」を伝えるだけでなく「こうしたい」を伝えることだと言いますが、日本では特に女性が性的なことを自ら口にすると「はしたない」などと言われてしまうという現実も。こうした現実をきちんと理解したうえでそれでも自分の気持ちを言葉にして伝えることが大事なのだというお話がありました。

自分がどう思っているのかを自分で知る。それを言葉にして人に伝える。どちらも学びの積み重ねのいる難しいことですが、日々の中で少しずつ積み重ねていくことでできるようになりそうです。自分が本当はどうしたいのか、どうしてほしいのかをいつも考える。そしてそれを口に出して伝える。すぐにできるようにはならないけれど、学習を続ければゆっくりと確実にできるようになることでもあると思います。

PAGE TOP