プロに教えてもらう、心理アプローチ Vol.1 ボディコンプレックスと性交痛

プロに教えてもらう、心理アプローチ Vol.1
ボディコンプレックスと性交痛

自分のからだに自信がなくてセックスのときに緊張してしてしまう、リラックスできない。ボディコンプレックスによる過緊張による性交痛。例えばぽっこりお腹が気になり息を止めてお腹を引っ込めたり、パートナーの手が自分のお腹に触れないか緊張してしまいガチガチにからだが硬直したり、セックスに集中できなかったり。ほかにも胸が小さいことや性器の色などボディコンプレックスは人それぞれ違うと思いますが、誰かと比較して気にする場合と、他者からの指摘で悩むことも。

それが要因となってボディコンプレックスが生まれ、精神的な問題やコミュニケーションのトラブルにつながることもあります。

もしかして、私の性交痛もボディコンプレックスから?
もしそうだとしても、今からからだを変えることはできないし、どうすればいいかわからない!
そんな人もいらっしゃると思います。

そこで今回は、ボディコンプレックスからくる性交痛をどうやって解決していくか、オンラインで性のお悩みカウンセリングをしながらSNSでも性の発信をされている臨床心理士の西田さんに伺いました。

胸や性器を含むからだの見た目のことで悩む人は少なくないと思いますが、その中で更にセックスのときに緊張してしまう。からだがガッチガチになってしまい、性的に興奮しないし濡れない、性交時に痛みまで出るなんてときは、どうすればいいのでしょうか。

西田

ボディコンプレックスからくる性交痛は「性的同意」と「ボディコンプレックスからくるセックスへの不安」という2つの要因があると思います。
性的同意というのは“性的な行為に対して、その行為を積極的にしたいと望むお互いの意思を確認すること”。お互い「したい」と伝える権利があるし、逆に「したくない」と伝える権利もあるんです。
パートナーとの関係をより深めたい・子どもが欲しいなどセックスをする理由は様々ですが、そこに痛みが発生する場合や不安な気持ちがある時は、性行為はまだしない・性行為の途中でやめてもいい。ボディコンプレックスに関しても、身体や性器を見られたくない場合は衣服を着たままや部屋を暗くして行為をしてもいいなど、できるだけ多くの選択肢をみなさんの中に加えてもらえたらと思います。

ご相談を受けるなかでも、“自分が”したいのか、“パートナーが”したいのか、という境界線がわからなくなっているケースも見受けられます。パートナーに嫌われないように、パートナーが喜んでくれるように、という気持ちは大切なものです。でも“自分が”どうしたいのかも同じくらい大切にすることは、今後お互いが気持ちよくパートナーシップを続けていくための基礎になりますし、セックスに対する問題も一緒に取りくみやすくなると思います。

そういうことを深く考えたことがなかったけど、そう言われてみれば一度ちゃんと考えてもいい気がしてきました。考えた結果、心からセックスを望んでいないと緊張してしまうかもしれないということでしょうか。

西田

心からセックスを望んでいないのであれば、心身のリラックスはむずかしいかもしれませんね。それに常に緊張状態での性行為をつづけることで、まずますセックスが嫌になるという悪循環が起こる可能性もありますし、自分はどうだろう、相手はどうだろう、とあらためて考えてみるのも大切なことですね。

あとは「なぜセックスしたくないのか」という点も大切なポイントで、ボディコンプレックスが原因ならカウンセリングという手段も有効です。ボディコンプレックスは自分の身体には欠点があると信じ込んでしまうことから起こりますが、それにはきっかけとなった出来事や考えがあるので、カウンセリングではそういった点も丁寧にヒアリングします。そこから自分にはどのような価値観があって、どんな思考が生まれているのかを知る。そうやって自分自身と対話してもらう時間が回復のプロセスになることもあります。慣れると、セルフケアの一環としてご自身でされるようになる方もいますよ。

自分自身で対話するって難しそうです、特別なテクニックはいるのでしょうか。

西田

ボディコンプレックスに限らず、悩みを頭の中でだけ考えないことは大事だと思います。紙に書いたり、デジタルツールを使ってもいいので文字にしたり、可能であれば信頼できるお友達に話してもいい。頭の中に置いているとネガティブな感情や気分に溺れてしまうこともあるので、なんらかの形にして外に出して思考や感情から少し距離をおくのが大事ポイントです。1人ではむずかしいと思われる場合はカウンセリングも活用してみてくださいね。

カウンセリングを受けると治るのでしょうか。

西田

立場上治りますとは言えないのですが、カウンセリングを受けると色んな気づきがあると思います。

なるほどカウンセリングで何かしら気づけるということは、ボディコンプレックスが理由でセックスで緊張してしまう場合もカウンセリングを受けていいんですね。「こういうこと相談できるのかな…」なんて心配でした。

西田

わかります。私も昔はそう思っていました。でも心理学を学ぶようになって、どんな悩みでもカウンセリングを利用していいんだとわかって。臨床心理士や公認心理師のような心理職は、こういう悩みじゃないとカウンセリングできません、というものは基本的にはないんです。真剣な悩みから時には雑談まで内容も深刻度も本当に様々です。病気だからカウンセリングを受けるのではなく、病気やストレスの予防として活用してもらえることも知っていただけたらうれしいです。
ただカウンセリングって人によっては勇気がいることだと思うので、その人の(相談したいと思う)タイミングってあると思うのです。あくまでもその人自身が行きたいと思うタイミングで利用してもらえたらと思います。

この記事を読んで「絶対にカウンセリング受けなきゃ」と思わず、相談できるんだってなんとなく記憶しておいて、「相談したいな」って感じたときが心の準備も含めて相談のタイミングということなのですね。

西田

そうですね。
ただ「相談したい」と思ったときにカウンセラーをどう選べばいいかというのは相談者の方にとってはむずかしい点かもしれません。
臨床心理士もしくは公認心理師であれば基本的には誰に相談しても間違いではありませんが、困りごとの内容やニーズによって、性専門のカウンセリング、病院のカウンセリング、トラウマのカウンセリングなど、より困りごとに合った相談機関を選ぶこともできます。他にも、パートナーと2人で受ける場合は家族療法を専門にしたカップルカウンセリング、思考にフォーカスする認知行動療法というような選び方をすることもできます。
今言ったような方でなくても、心理職であれば守秘を守ったうえで困りごとを丁寧に慎重に扱います。そのうえで他の機関で相談した方がいいかもしれないと判断した場合には紹介先を検討してくれるところがほとんどだと思います。最近はWebで心理職を検索することもできますし、あなたの味方になってくれる人はきっといる、ということを伝えたいですね。

他者から自分のからだをからかわれた場合、どうすればいいのでしょうか。

西田

いたずらにからかわれるのは不快ですよね。自分が嫌だと感じたことを相手に伝えて理解してもらえるのであれば、それがベストで。でも性格や環境などが理由となって、それができないことがあるのも事実。

そういう場合、「私の身体がだめだから、変だから」と自分を責めてしまうこともあるかもしれませんが、本当はそんなことしなくていい。だって人の身体はみんなちがうから。余談ですが、VIO脱毛の仕事をしている友人が、「女性の身体って本当にみんなちがう。それを実感してから自分の身体も自分だけのものでいいんだと思うようになった」と言っていたことを思い出しました。そうやって少し視点を広げることで、価値観がアップデートされることもありますよ。

ただからかわれることが続くなら、なんとかやめてもらいたい。そんなときはアサーションというコミュニケーションスキルを伝え方の参考にしてもらえたらと思います。アサーションとは自分も相手も尊重するコミュニケーションのこと。見た目について悪意をもって言う人もいますが、実はなんの悪気もなく言っていたという人もとても多いですから。伝え方次第でわかってもらえることもあると思います。

傷つけるつもりも、悪気もないけど、ふっとお友達やパートナーの見た目について口に出したことが傷つけてしまうこともありそうです。

西田

場面によっては、褒めたつもりなのにってときもありますよね。同じ言葉でもそれをどう受け取るかは人それぞれちがいます。だからこそ、人の容姿についてコメントするときはやっぱり気をつけたいですね。

ただ、ボディコンプレックスが強い方の中には、他人からの言葉を深読みしてネガティブに捉えてしまう、というタイプの方もいます。他人の言葉を必要以上にネガティブに受け取るクセがあるのかもしれません。自分の思考のクセに気づくことで、ボディコンプレックスによる傷つきから自分を守ることもできると思います。

クセに気づけるの難しそうです。

西田

最初はすこしむずかしいかもしれませんね。どんな人でも、ランダムに思考のクセが出るわけではなくて、いくつか決まったパターンがあります。自分のパターンを知ることで対処法も見えてきますよ。
カウンセリングを受けるのはハードルが高いと思われることもありますが、最近はオンラインやLINEなどのSNSを使ったものなど新しい形態のカウンセリングも増えてきました。悩みを1人で抱えてしまっている時は、ぜひカウンセリングも候補に入れてもらえたらと思います。

今日はカウンセリングの良さがすごくわかった気がします。性交痛で悩む方々は交際がうまくいかない、妊娠できない、未完成婚や不妊治療中の不安、更年期世代では、夫婦関係など本当にひとりで悩んでいる方が多いと思います。そして今日の本題であったボディコンプレックス。これは大なり小なり皆が経験しているのではないでしょうか。その捉え方次第で健康を害する場合は、カウンセラーさんに手伝ってもらうこともありなんですね。

次回は、今注目されているアサーションというコミュケーションスキルについて詳しく、そして具体的に自分でチャレンジできる方法を教えてもらいます!

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