プロに教えてもらう、心理アプローチ Vol.2 アサーションというコミュニケーションスキル

前回、他者に自分のボディのことをからかわれた時に、なんとかやめてもらいたいと思ったら、自分も相手も尊重しながら言いたいことを伝える「アサーション」というコミュニケーションスキルがあるよ、というお話がありました。

そこでふと浮かんだのが、性交時に痛みがある時に「痛いって言いづらい」「伝えると雰囲気を壊してしまいそう」と痛みを我慢してしまう人たちの声。セックスの要望を伝えるときにも役に立ちそうなスキルなのでは!?と、つい前のめりになってしまいました。

性交痛対策にも一役買いそうなアサーションというコミュニケーションスキルについて、西田さんにあれこれ質問しながら教わりました。

さっそく質問ですが、前回登場したお腹が出ているのを気にしている例で、パートナーに悪意はなく、何気なく普段のスキンシップの延長でお腹を撫でられた時に本人が落ち込むなんてこともあります。気にしているから触れないで欲しいときはどうすればいいのでしょうか。もし過去にお腹が出ていて気になると打ち明けていたら、「気にしていることを知っているでしょ、触らないでよ!」なんてプンプン怒ってしまいそうです。

西田

コミュニケーションって、「相手もOK、自分もOK」が理想だと思います。それは人間関係も同じです。パーフェクトじゃなくてもいいから「お互いにある程度OK」な状態を目指したいところ。

例えば、伝え方としては、「嫌だな」と思ったことを「あなたに悪気がないのはわかってるんだけど、私は嫌だなって思う」「こうしてくれると私は傷つかないし、あなたともっと気持ち良くいられる」のように、自分を主語にして気持ちを伝えるといいです(アイメッセージという方法です)。そして「どうかな?」と相手の気持ちも確認する。そうやって自分も相手も尊重できるといいんですが、難しいと感じる方も多いみたいです。日本人は文化的にも言語的にも「自分」より相手を尊重する傾向にありますから、アイメッセージはある意味日本人にはあまり馴染みがない、海外っぽいコミュニケーションかもしれませんね。

日本人に馴染みのないそのようなコミュケーションスキルはどうやったら身に着くでしょうか。

西田

まずは、自分と相手のコミュニケーションのクセを把握するといいですよ。主張的タイプなのか非主張的タイプなのかアサーションタイプ(バランサー)タイプなのか。
自己理解を深めながら相手のことも理解することで、コミュニケーションはぐっと建設的になります。
その時に大切なのは、相手を無理に変えようとしないこと。人にはそれぞれの価値観がありますし、それを無理に変えようとするとお互いの信頼関係にひびが入ることも。まずは自分の気持ちをしっかり理解して、相手の立場にも立ちながら伝える。それがアサーションスキルを身につけるポイントです。

アサーションの方法を学ぶうえで、シナリオを作ってみると効果的かもしれないと思いましたが、どうでしょうか。

西田

シナリオを作るなら、例えば相手がYESと言ったらどうしよう、NOと言ったらどうしよう、もしくは何も言わなかったらどうしよう、というように、自分はどうするかのシナリオを何パターンか用意しておきます。「どう思う?」と聞かれたときに、気持ちを言語化するのに時間がかかる人もいます。そんなふうに何も言わなかった場合の提案法も調べていただくといっぱいあるので参考になると思います。ただ、シナリオはあくまでもコミュニケーションのヒント。そうならないからといって、焦らなくても大丈夫です。

たしかに相手の出方次第で動揺したり、とっさに言葉が思いつかないこともありそうです。黙っていられるとイライラしたり、怒ったり、理解してくれていないのかもって悲しくなったり、「もう別れる」なんて究極の選択をしてしまうかもしれません。もちろん別れる選択が悪いわけでは全くありませんが。

西田

怒りや悲しみを感じるのは自然なことですから、無理に抑圧する必要はありません。ただ、感情が出てくるのと、相手にそのままぶつけるのは違うことです。
自分の「イライラする」「悲しい」という感情をいったん受け入れて、それを相手にどう伝えればいいのか、どう言えば伝わるのか。気持ちを言語化することはむずかしいかもしれませんが、カップルや夫婦間ではとても大切なことだと思います。またそれが2人のコミュニケーションが変わるキッカケになることもあります。

カップルや夫婦がケンカになるときのパターンって共通していたりしませんか?例えば「妻が不機嫌になる。夫が気を遣う。でも妻はますます不機嫌になる。夫は何も言わなくなる」というように。いつも同じパターンになってしまっているなら、不機嫌の出し方を変えてみたり、謝り方を変えるなど少し工夫するだけで関係性にいい変化をもたらすことも期待できます。

もしかしたら関係性が変化する中で、「関係を終わらせる」という選択をすることもあるかもしれません。でも、感情的になって別れるのと、お互いがそれぞれの気持ちを尊重しあって別れるのとでは、きっと意味合いが違ってくると思います。

この話からいうと、困ったときだけでなく普段の会話にもアサーションを取り入れていけるんですね。

西田

そうですね。例えば今日最初の話題で出たボディコンプレックスを持っている方は、ボディに関することを言われて嫌だと思っても伝えられないことも多いと思うのですが、言いたいけど言えなくて思考がグルグル回って「いつの間にかひとり相撲していました」というケースも多いのではないかと思います。自分の気持ちや考えを伝えることだけが正解ではありませんが、もしパートナーとコンプレックスについて話したいと思う時はアサーションをヒントにしていただければと思います。

性交痛がある。ボディコンプレックスがある。
そんな場合のセックスはアサーションで解決できそうですね。

西田

セックスの痛みがあることはやはり伝えてほしいと思います。ボディコンプレックスだけではなく、性交痛を伝えるときにもアサーションスキルは使えると思います。

カウンセリングでも必要に応じてクライエントの方とアサーションを練習することもあります。アサーションは練習すれば誰でもできるようになります。気になる、試してみたい、練習したい、という方はカウンセリングを利用するのもオススメです。

繰り返しになりますが、アサーションは、相手を尊重しつつ自分の意見を伝えるコミュニケーション方法のひとつで、自分の考え、欲求、気持ちなどを率直に、正直に、その場の状況にあった適切な方法で伝えること。

痛みを感じてつらい状況にある自分のことも尊重しつつ、パートナーに対しても極端に攻撃的・悲観的にならずに、今の状況や気持ちを伝える。それができれば、セックス時はもちろん、その時以外の2人の関係性もよりよくなると思いますよ。

「その場の状況にあった適切な方法で伝える」ということですが、ボディコンプレックスがあったりするとセックスの最初から緊張して、もう何かを伝えるって状況ではない気がします。

西田

たしかにそうですね。最初から言葉で伝えなくても、自分なりにコンプレックスを刺激しないような工夫ができるといいですよね。例えば、行為が始まっているときは「裸になるのはちょっと恥ずかしくて…」というジャブを打ちつつ着衣でセックスする。終わった後に「実はね…」と改めて話すなど、その時の空気に合わせて少しずつ伝えるのもひとつの方法だと思います。ただ、そこに「まだセックスしたくない」という気持ちがあるなら、そこを尊重してほしいなと思います。セックスの時だけ上手にコミュニケーションをとろうとするのではなく、普段からお互いを尊重しながらいろんなことを話す機会をもって、「わたしもOK、あなたもOK」という関係性をつくってもらえるのが理想ですね。そのヒントとして、ぜひアサーションを活用してみて下さい。

アサーションというコミュケーションスキル、いかがでしたでしょうか。日本人にとっては馴染みがなくやや難しいコミュニケーションの方法に感じますが、自分も相手も尊重しながら気持ち良く伝えることができたら、コンプレックスや痛いことを伝えるハードルも少しずつ低くなりそうです。
急に試すのではなく、普段の会話からこのコミュケーションスキルを取り入れていくことで、性生活の会話にも取り入れやすいってことですね。

ABOUT US
ふあんふりー編集部
ふあんふりー編集部FuanFree
WHOなどの国際機関が定める「性の健康」の概念に着目し、私たちの編集部は「痛みのない、喜びのある性生活のためにー」をモットーに掲げています。総医療監修の医師をはじめ各方面の専門家との協力を通じて、性交痛に関する信頼性の高い情報を提供しています。私たちは性の健康に対する理解を深め、読者が充実した性生活を享受できるよう、包括的で専門的なコンテンツをお届けしています。