コロナの時代の性の健康・性科学

シリーズコラム「性の健康」⑥ コロナの時代の性の健康・性科学
シリーズコラム「性の健康」⑥  コロナの時代の性の健康・性科学

コロナの時代の性の健康・性科学

ふあんふりーは、性交痛(性交時の痛み)を健康問題と捉えています。その背景にあるのは「性の健康」という考え方。では、性の健康とは何なのでしょうか?

本サイトの医療総監修者であり、「世界性の健康学会」や「日本性科学会」等でも活躍している産婦人科専門医である早乙女智子先生にお話を伺う対談シリーズの第6回(最終回)。
(聞き手:思春期の性の諸問題に向き合い、同じく「世界性の健康学会」等にも参加してきたLink-R・柳田正芳。ふあんふりー運営者のひとりでもあります)

こちらの記事の基になった、この対談。
上記記事では書ききれなかったお話を、コラムとして連載していきます。最終回の今回は、性科学への想いのお話、そして2020年12月におこなわれた新たな対談の内容をお届けします。
前回の記事はこちら

性の話題の扱い方が分からない人は専門家にもいる

柳田

一見、「性」とは関係ないように感じられる話題も、性の話題と深いところでつながっていることがよくありますよね。それくらい性の健康に関する分野は幅広く、色々な事柄と結びついていると感じます。「性の話」「性の健康の話」というタイトルが最初に来ると、自分たちには関係ないと思われたり敬遠されたりということもよくありますが…。

早乙女

専門家と言われる人たちの間でもそれは同様ですよね。性に関連する話題が出てくると急にどうすればいいか分からなくなってしまう人は、専門家とは言えないです。日本に性科学という学問が浸透していないからそういうことが起こるんだと思います。

柳田

確かに、どうしていいか分からなくなる方は多いですよね。それに、科学というものは自分の経験がどうという話ではないはずなのに、性のことになると急にみんな自分の経験で語ったり、経験の有無を気にしたりします。

早乙女

そうなんです。「n=1の話は聞いてません」といつも言うんですが。「がんになったことがなくてもがんの専門家でいい」という話と一緒なはずなのに性の話になると急にわからなくなってしまう人が多いですね。それくらい性の話についてはどう扱っていいのかみんな分からないということです。

柳田

性の話の扱い方が分からないというのは、色々な方とお話していると感じる場面が多いです。

日本に性科学を広めていきたい

早乙女

だから、これから日本に性科学の旗を立てていきたいと思うんですよ。性科学のなかで日本で本当に扱われていないのが、性生理学、性解剖学、性薬理学。糖尿病で起こることの研究と同じように、生理学や解剖学がある学問なんです。そこにあえていうなら社会学とか心理学とかも入ってくる。

柳田

本当に幅広いですね。

早乙女

なので今、一般医療者向けの性科学の本を書こうと思っていて。一般の医療者向けの、授業で言えば1~2時間くらいでできるくらいの内容の本を考えてます。

柳田

すごくいいですね、それ!医療者のみなさんに性科学の知見が広まってほしいと思います!

早乙女

ふあんふりーには本当に期待しています。色んな情報を発信して、まずは自分の悩みを解決していく。また、そういう悩みを抱えている人がいたらそこにつなげていくとか、色々な動きが考えられますよね。

柳田

ありがとうございます!今日は色々お話を聴かせてくださってありがとうございました!

編集部より

6回にわたりシリーズでお届けしてきた「性の健康とは」対談。こちらの記事のもととなったこの対談は、2020年5月に行われました。それから7か月経った2020年12月、早乙女先生と柳田さんに、再びお話をしてもらいました。「性の健康の概念は時代に合わせて常に進化し続けているということですが、この概念と長年向き合ってきているおふたりの中でふあんふりーリリースから7カ月経過した今、何か変化などがあったかを聴きたいです」という編集長からのお願いで実現した再度の対談ですが、やっぱりすごい話が次々に飛び出しました!

コロナの時代の性の健康

柳田

性の健康という概念は進化し続けていますが、ふあんふりーのリリース(2020年6月)以降、先生の中でも新たな発見などあったでしょうか。

早乙女

まず今年、ふあんふりーができたことが大きな一歩でした。それからコロナ(COVID-19)の影響で人間同士の関わり方に変化が生じ、「性のことも含めて親密さとは何か」「感染を親密な人あるいは周りの人にさせない性行為とは何か」という新しい軸をもたらしたことが大きいですね。

柳田

コロナ禍で一気に変わったことが色々ありましたね。

早乙女

セルフプレジャー(注:マスターベーション、オナニーのこと)とインターコース(注:挿入のこと)の優先順位も人によっては変わったのではないかと思います。つまり、コロナの状況下で何が安全かを考えると、セルフプレジャーが圧倒的にファーストチョイスになり得る。これは世界的にも言われていることですよね。だから、マスターベーションすること自体に後ろめたさを持っていたということ自体への後ろめたさみたいなものがありますね。別に自分でやることだし、本当に誰にも迷惑かけないし、誰からも嫌なことされないし、何を遠慮していたんだろうというのがもはや本当に分からないです。

柳田

セルフプレジャーの存在感、確かに一気に高まりました。

早乙女

可能であれば親密な人との間で性行為があるかもしれないけれども、コロナ前の状況に完全には戻れないと思うので、これからの新しい性の在り方っていうのを進めざるを得ない。そのなかにもうひとつの軸として「多様性」というのがあって、多様性ということを考えた時に、今までどうして私たちはペニスを腟に入れることにこだわってきたんだろう?という新たな気づきがありました。例えばセルフプレジャーとインターコース、腟内射精というものを考えたとき、腟内射精障害あるいは女性性機能不全という言葉自体が、もはやそれは何だったんだろうかと思うくらい、できないことの問題点がわからなくなりました。

柳田

「今までどうして私たちはペニスを腟に入れることにこだわってきたんだろう?」ってすごいパワーワードだと思いますが、確かに!ってなります。

早乙女

それから、何気ないハグ・キス、あるいは人の身体に触れることをコロナ禍に突入して以降、私たちは極度に恐れていて、ちょっと触っただけでもコロナをうつすんじゃないか、もらうんじゃないかという今までと違う感覚に囚われています。これが今年の初めと大きく変わった点かなと思っています。

柳田

どの話も性の健康に関するパラダイムシフトでもあるけれど、進化でもあり、深化でもありますね。

性交痛から性の健康を語ると見えるものが変わる

柳田

さっき、ふあんふりーができたことが大きかったと言ってくださいましたが、ふあんふりーができたことで性交痛について、あるいは性交痛を取り巻く状況について、見方が変わったことはあるでしょうか?

早乙女

性の健康のことをやってくる中で、性交痛はその一部だと私は思っていたんです。他方で、切り口を変えて性交痛という軸で性の健康を語っていった時に、女性が痛いうえに痛がる自分を情けなく思いこんだり思いこまされたり、医療従事者が「旦那さんが可哀そうだね」「痛いのは当たり前ですよね」「我慢すればいいだけのことです」というような言葉を口にするというのもたくさん見聞きしてきていて、それらすべてが私のなかでは性暴力であるという認識をするに至り、これまで何を診てきたんだろうかっていう反省があります。

柳田

性交痛を出発点にして性の健康を考えた時に、そういったことにたどりついたわけですね。

早乙女

そうです。特に、カップルの関係性の話というのはセックスカウンセリング、セックスセラピーのなかにもありますが、そこに本人が持っているスティグマや、自分が悪いと思い込んでしまうことは、簡単には払拭しがたい部分で、でも性交痛側から見ればそれは払拭せざるをえないもので、それなしには解決しないわけだから、出発点の違いによる見えるものの違いというのは大きいなと思いました。

柳田

ですね!何度かふあんふりーのなかに出てくる僕が思いついて書いた言葉で「人知れず独りで悩む」「命には関わらないけどQOLには関わる」っていうのがあるんです。悩んでいるご本人にとっていかに大きなことなのか、どれだけ性の健康を害している状態であるのか、軽んじられることがどれほど人としての権利が踏みにじられていることなのかっていうそこの理屈の繋がりをすごく明確に意識をさせてもらったというのを自分の中でも感じてます。そこに関する気付きをもらった意味は大きかったです。

制度や法律が追いついていない現状がある

柳田

次の話題ですが、性機能不全は保険病名ではないそうですが、ふあんふりーのようなサイトを通じて当事者の意識を変えられたとしても、制度、医療ともに改革が必要だと思われますが、何かご意見ありますでしょうか。

早乙女

性の健康、性科学、性疾患、そういう領域が医学界の中でまともに扱われてないんですよね。医学や医学教育の中で普通に性科学が扱われていないところをまず何とかしないといけないとなると、それらの中に「性の健康を抜きにした健康は健康ではない」というメッセージを明確に入れていくしかないと思います。医療制度に入れば保険点数化するしないという話になりますし、医学教育のなかに入れば性科学がきちんと授業の中で扱われることになります。

柳田

最近「性の健康基本法」という法律があったらいいなという話を思いついたんです。そういう理念法を作って、その下に関連する法律がいくつかできると全体で「性の健康基本法制」のような話になるかなって。

早乙女

そうすると緊急避妊薬の話や中絶ピルの話なども出てきますね。性科学を推進することと性の健康基本法を実現すること、どちらもとても必要なことです。

「多様性」に関する更に深い議論が必要

早乙女

性の多様性といったときに、個人ないしカップルないしそのパートナーシップのなかで、何をもって「機能不全」と呼ぶかというのは様々ですよね。今は挿入ができないと機能不全という扱いになりますが、挿入にこだわらなければ、病名が変わる可能性は十分にあります。

柳田

ありますね。インターコースができなくなったから違うセックスの形を模索した結果、インターコースから解放されてより深い快感を得られるようになったっていう話もこの間ふあんふりーに投稿されて来ました。インターコースしたい人はそれでいいし、そうじゃない人はこういう楽しみ方があるよという、そこにも「多様性」というワードが出てくると思うんです。

早乙女

そうなんですよ。実はマジョリティのなかの多様性が一番未分化なんです。そこはまだこれから掘り下げられる領域じゃないかな。

柳田

確かに。マイノリティは議論や研究の対象になって細分化されてカテゴライズされるのに、マジョリティはマジョリティという以上のカテゴライズが無いですよね。

早乙女

そうです。あとはいわゆる普通の女性という概念があまりにマイノリティすぎて、そんなにマイノリティでいる必要ないよと伝えたいですね。産婦人科の内診されたくないけど何だかされてるっていうのもすごく医学的じゃないので、医学的根拠に基づいてということも、ちゃんとした学問である性科学の領域で突き詰めたいところです。

柳田

まだまだやることたくさんですね!これからもともに力を尽くしたいです。今日もお話を聴かせてくださりありがとうございました!

編集部より

早乙女先生、対談は1回といえど、6回にわけ月に一度の編集の度に議論を重ねてきて下さり、ご尽力いただき本当にありがとうございました。私たちには当たり前にある「性の健康」の概念が、特に性交痛で悩む皆さんにこそ、一人ひとりの中に宿り、誰にも振り回されない知識というツールになればと願っています。

必ず性交痛に悩むみなさんの味方になってくれ、何かに気づかせてくれるはずなので、困難を感じた時にこの対談シリーズを読みなおしてみてください。

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