ふあんふりーのInstagramから毎月インスタライブ「セックスセラピスト・佳菜子の部屋」をお届けしています。挿入障害の診療を専門とする産婦人科医・村田佳菜子先生がホストを務め、挿入が困難な方の治療に関してさまざまな側面に焦点を当てています。この記事では11月からスタートした「セックスセラピスト・佳菜子の部屋」でこれまでにお話しされた内容をまとめています。今回は2023年11月26日に配信した第2回目のテーマ「ワギニスムスについて」、ライブ配信の内容を分かりやすく要約してお届けします。
第1回目の記事はこちら:「ダイレーターの効果的な使い方と練習方法」
目次
村田佳菜子先生のプロフィール
性交痛とワギニスムスの違い
精神障害の診断に用いられる国際的な診断基準であるDSMでは、以前はワギニスムスと性交痛は別の項目に分類されていましたが、最新版では同じ項目に統合されています。ワギニスムスと性交痛がしばしば共存し、相互に関連することが多いためです。
相手のペニスが擦れて痛い、潤滑不足で痛い、などのよく知られている性交痛にワギニスムスが合併する、よく知られている性交痛が原因でワギニスムスになる、といったこともあり、性交痛とワギニスムスが共存することも多くあります。そのため、DSMでも同じ項目に含まれているようです。
なお、性交痛は症状、ワギニスムスは病名、という区別があります(胃痛は症状、胃潰瘍は病名、と同様の考え方です)。臨床でもそれ以外の場でも性交痛とワギニスムスの区別がはっきりと意識されていない場面が多くあります。
言い換えると、ワギニスムスが原因で性交痛が発生する場合もあれば、性交時の痛むことが原因でワギニスムスが発生する場合もあるということ。そのため、治療計画を立てる際には、これらの症状がどのように関連しているかを理解することが重要です。
ワギニスムスとは(病態)
ワギニスムスというのは、緊張や痛みに対する予期不安により、自分の意志とは関係なく、腟の入り口が反射的にキュッと締まってしまう状態のことです。腟は個人差はあるもののだいたい10センチぐらいあって、その下部3分の1くらいには腟周囲を囲うしっかりした筋肉が存在します。肛門挙筋や球海綿体筋などで、骨盤を下からがっちり支える骨盤底筋群の一部になります。
実は、腟の全体がキュッとなるわけではなくて、上の方にはあまり筋肉がないので、締まりにくいんです。だから、腟の上の方はけっこうスペースがあるんですが、入り口だけがキュッと狭くなっちゃうんですね。
ワギニスムスがあるかどうかの判断は、基本的には触診で行います。ただ、触診が難しい場合もありますので、その場合は収縮感があるかどうかで、「たぶんワギニスムスだろう」と判断して治療を進めることもあります。
腟が狭い、処女膜強靭と思わせる状態や位置
腟の入り口を囲っている筋肉、巾着袋に例えると、袋の口がキュッと締まるような状態がワギニスムスです。締まってしまう状態が、腟が狭い体質と感じさせたり、場所が処女膜のすぐ脇の筋肉なので、処女膜が強靭なのかもと思わせてしまうことがあります。
ワギニスムスの診断
診断方法
臨床的には、医師が指を腟に挿入して、腟の周囲の筋肉の痙攣を触知すればワギニスムスの確定診断となりますが、中には診察台に乗ること自体が怖かったり、指すら挿入できなかったりすることもあります。その場合は性行為時の状況やエピソード、患者さんの不安や恐怖などの訴えをもとにワギニスムス疑いとして治療をおこないます。
また、性交痛とワギニスムス(腟痙攣)の鑑別は、とても難しいです。例えば、性交時に痛むことがワギニスムスでない場合や、ワギニスムスでも痛みを感じない場合など、様々なケースがあります。そのため、ワギニスムスと診断できなくても、性交痛を訴える患者さんにはワギニスムスと同じような治療を施し、同時に他の原因がないか探ることがあります。
専門医でないと判断は難しい
一般の病院ではワギニスムスの診断は難しいです。婦人科医でも多分知っているのは0.1%以下だと思います。なので普通に婦人科に行っても、「そんなの初めはみんなそうよ」とか「我慢しなさい」とか、「そのうち入るわよ」と言われて終わっちゃうことが多分ほとんどです。
挿入困難=ワギニスムス、でもない
腟の入り口の痛みは、ワギニスムス以外にも様々な原因があり得ます。たとえば、誘発性腟前庭部痛はワギニスムスとは異なる状態であり、これが併存していることもあります。他にも、腟の入り口が過敏になっている場合や、神経系の異常、感染症、皮膚の問題など、様々な原因が考えられます。
例えば、稀に、外陰部の皮膚が切れやすい人がいて、性交によって皮膚が切れることがあり、それが恐怖感を生じさせ、性行為が困難になることもあります。これらの多様な状態を考慮して、正確な診断を下すことは医師にとっても難しい場合があります。
また、性感染症や炎症など、何かしらのトリガーがあってワギニスムスが起こることもあり得るとのことです。つまり、ワギニスムスは誰にでも起こりうる状態であり、様々なできごとによって引き起こされる可能性があると言えます。
ペニスは入るけれども、ワギ二スムスも存在するということもありえます。ワギニスムスには様々な程度があり、中には挿入が可能な程度の収縮を示すケースもあるんです。普段から性交時に痛みを感じている方の中には、このような形のワギニスムスを持つ方が意外と多いかもしれません。
治療のゴールは人それぞれ
先日、私が学会でも発表したのですが、挿入困難を主訴に私の外来を受診され、ワギニスムスと診断された方のうち、約半数は二回目の受診に繋がります。一方で、半数弱は初診の相談のみで納得され治療には繋がらずその後の経過はわかりません。二回目以降の受診があり、カウンセリングやダイレータートレーニングなどの治療を継続した方のうち、約4分の1はペニスの挿入が可能になり、別の約4分の1は婦人科の診察ができるようになりました。こうした方の中には、ペニスの挿入ができなくても、妊娠に進まれる方もいます。
治療の成果に関しては、その定義は人それぞれ異なります。例えば、”不妊治療や婦人科診察ができるようになる”、”普通の性交が可能になる”ことを治癒の目標とする方もいらっしゃいます。このような目標を達成することは、大きな成果と言えるでしょう。
処女膜切開の前にワギニスムスの診察を
挿入困難でネットを検索すると処女膜強靭症という言葉が出てきたりして、私の外来に来る前に、別のクリニックで処女膜切開を受けたという患者さんも結構います。学会の報告でもありましたが、処女膜切開を受けてペニスの挿入ができるようになった、という治癒の報告は多分あまり出ていないと思います。多くの場合、誤診されていることが多いです。おそらく、処女膜強靭症だと言われて、切っても治らないっていうのは、実際には処女膜強靭症ではないから切っても治らないんです。切ることが必ずしも良くないという意味ではなく、順番として切る前にワギニスムスの診察を受けていただいて、検討していただければと思います。
文献的には、挿入困難で処女膜切開が必要なのは5%以下と言われています。個人的にはもっと少ないと考えていて、背景には今まで診察した患者さん200人の中で、処女膜切開が必要と判断したのは2人ぐらいだったので1%ぐらいかもしれませんね。
過緊張はワギニスムス?
緊張してても、筋肉が緊張しなければワギニスムスにはなりません。精神的緊張=ワギニスムスではないです。それが、身体症状として現れてしまった場合のみ、ワギニスムス。必ずなるわけではないと思います。濡れづらくなる、性的な興奮が起きづらい、などが=ワギニスムスではないんですけど、緊張していると、濡れにくくもなるし、ワギニスムスにもなるって感じですね。
ただ濡れにくいと痛い、痛いことが緊張になったり恐怖になったり、痛みに対する不安になってワギニスムスに繋がることもあります。イコールではないですけど、どこかで繋がっています。今日は大丈夫!と自信があって、全然恐怖感もなくて、といういう人でワギニスムスもいます。
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生来型と獲得型の2タイプがある
ワギニスムスは、生来型と獲得型という2つがあるんですけど、生来型は、もう生まれてからこの方1回も入ったことありませんというものです。獲得型は、元々は全然問題なく入っていたんだけど、あることをきっかけに入らなくなっちゃったっていう人ですね。
例えばパートナーが変わったとか、環境が変わったとか、あと何かすごく痛い思いをしたことがあったとか、そういう何かきっかけがあって発生することがあります。
あとは別に何か特別なきっかけがあったわけではないけど、ある時から何となく痛くなって、放置していたら、ずっと痛むようになったケースもあると思います。
再発した場合の対処法
再発した場合は、また治癒前と同様にダイレータートレーニングをしていただくのがいいと思います。再発した理由にもよりますが…。
- 腟内射精障害の治療は本人の意思がないと開始も継続もしない
- 腟内射精障害の場合、挿入から射精までの時間が長いことでセックスにネガティブになる事例は多い
- パートナー間でお互いが何を望んでいるかのコミュニケーションが大事
ワギニスムスの原因は多様で複雑
いろんなことが絡み合って、ワギニスムスも起きるので、複雑なんですよね。そのため、単にダイレーターを使用するだけで解決できるわけではありません。以前の学会で発表しましたが、性欲低下に対する注射は効果的で、男性ホルモンを投与することで改善が得られることがあります。ただし、注射だけでなく、本人の気持ちや家庭環境、パートナーとの関係などを聞き取り、性欲が低下している原因を理解し、改善していく必要があります。ワギニスムスの場合も、ダイレーターを使用するだけで完治することは簡単ではないと考えられます。治療には総合的なアプローチが必要です。
ワギニスムスはパートナーの性機能不全がある人も結構いますね。ダイレーターでワギニスムス治ったのに、いざセックスしてみたらやっぱり腟内射精障害だったって人も何人かいましたし、EDだったって人もいます。
それがきっかけでなった方もいれば、パートナーにも性機能障害があった、っていう人もいましたね。ワギニスムスは、本人は何にも悪くないですよ、みんなに言うんですけど。いらっしゃった方みんな自分なんか出来損ないでみんなが普通にできることができなくて情けないと言います。けど、本人たちは何にも悪くないんですよ。だからパートナーに申し訳ないとか劣等感を感じるとか一切消してくださいって言います。
皆さんはご自身を責めたりしたら、本当に時間がもったいないです。とは言っても、パートナーが目の前にいると、やっぱり落ち込んじゃったりもしますよね。
- 行動の変化には理由がある、二人でオープンに話し合うことが重要
- 自分の感情や思考を理解し、相手に伝えることは難しい
- 専門家を頼るのも選択肢のひとつ
- ワギニスムスは複数の要因が絡み合い起きるので、自分を責めない
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ワギニスムスの治療法
挿入障害の治療は、基本的にダイレーターを使ったトレーニングです。ダイレーターは、指の太さから段階的に太さをあげる器具で、腟を広げるというより、心理的な拡張を促します。トレーニングだけで改善することもありますが、トラウマや緊張が強い場合は心理カウンセリングも重要です。妊娠の希望で治療を急いでいる場合は、腟の筋肉にボトックス注射する治療もありますが、注射後もダイレーターのトレーニングが必要です。
ワギニスムスをはじめとする挿入障害の治療ができる女性性機能外来について村田先生が解説している2つのインタビュー記事もご参考に。
まとめ
- ワギニスムスは、緊張や痛みに対する予期不安により、自分の意志とは関係なく腟入り口の筋肉が収縮して腟開口部が狭くなり、ペニスの挿入や婦人科診察が困難になる
- 性交痛とワギニスムスの鑑別は難しく、痛みを訴える患者が本当にワギニスムスなのか性交痛なのか判断するのは簡単ではない
- パートナーが変わることをはじめとした環境の変化などにより、ワギニスムスは再発する可能性がある
- 性交痛やワギニスムスの再発防止のため、根本原因の探索が重要
- 治療は、指の太さのダイレーターから順に拡張トレーニングしていくことが大切
- ワギニスムスは挿入障害、女性性機能障害を専門とする専門医に診断してもらわないと診断が難しい
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ふあんふりーでは、村田佳菜子先生とインスタライブを行いながら、定期的なアンケートを実施しています。前回の「ダイレーター」のテーマのアンケートを引き続き実施中。みなさんのご意見をお聞かせください。
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日本産婦人科学会認定専門医 村田佳菜子先生
医療法人LEADING GIRLS
女性医療クリニックLUNA ネクストステージ
【略歴】
2011年 日本大学医学部医学科卒業
2013年 順天堂大学産婦人科学講座入局
2019年11月 女性医療クリニックLUNAで婦人科・性機能障害外来の診療開始
【所属学会】
日本産婦人科学会、日本女性医学学会、日本産科婦人科内視鏡学会、日本性科学会、日本性機能学会、日本GID(性同一性障害)学会、関東ジェンダー医療協議会 理事