患者さんの86%が性交痛、内診が怖くても診察可能な女性性機能外来について

こばやし

性交痛の治療で大きな壁は、詳しい医師が少ないこと。性交痛を診れる医師やクリニックは、他とどう違うのかを比較するのではなく、診療にあたるその医師の姿勢や視点をお送りして皆さんなりに判断してもらえる材料になればと思い、シリーズ化してお伝えします。

ドクター訪問記Vol.2、今回ご紹介するのは、神奈川県横浜市にある女性医療クリニックLUNA ネクストステージ(以下、LUNAクリニック)です。こちらのクリニックは、性交時の痛みを女性泌尿器科で診てもらえる他に女性性機能外来という科があり、その外来を担当されている村田佳菜子医師にお話を伺いました。

お話を伺った先生

日本産婦人科学会認定専門医 村田佳菜子先生

医療法人LEADING GIRLS
女性医療クリニックLUNA ネクストステージ

【略歴】
2011年 日本大学医学部医学科卒業
2013年 順天堂大学産婦人科学講座入局
2019年11月 女性医療クリニックLUNAで婦人科・性機能障害外来の診療開始

【所属学会】
日本産婦人科学会、日本女性医学学会、日本産科婦人科内視鏡学会、日本性科学会、日本性機能学会、日本GID(性同一性障害)学会、関東ジェンダー医療協議会 理事

女性性機能外来、婦人科、泌尿器科との違い

性交痛の原因は様々ですが、その中で、器質的※1な異常やGSM(閉経関連尿路生殖器症候群)※2で痛むとか、ホルモンの影響や炎症、子宮内膜症、膀胱炎、性感染症などが原因であれば、婦人科や泌尿器科になります。

私が担当している女性性機能外来で診ているのは、一般の婦人科や泌尿器科では扱われない「性機能不全※3」という精神疾患に分類されているものです。より精神的な事柄が強く影響しているものに関して診ている感じですね。

写真提供:女性医療クリニックLUNA ネクストステージ
編集部メモ

※1 器質的:身体的(臓器や器官など)
※2 GSM(閉経関連尿路生殖器症候群):閉経その他で女性ホルモンが低下したために起こる泌尿器・生殖器の症状(出典:LUNAクリニックホームページ
※3 性機能不全:性的機能の疾患の総称 オルガズム障害、性的興奮、性交疼痛、腟けいれんなどが含まれる

性機能外来の主な患者さん

この外来の開設以来、患者さんの86%が性交痛を理由に来院しています。そのうち挿入障害の方が最も多く、全体の70%を占めます。私のコラムに「ワギニスムス(腟けいれん)※4」という言葉が出てくるので、それを見てこられる方が多いのも影響しているかもしれません。

挿入障害の方が多いのは事実ですが、性に関することであれば何でも診させていただいています。今まで実際に受診された方の訴えは、挿入障害、性交痛、診察困難、性欲低下、性嫌悪などでした。もちろん訴えは一緒でも、病態がちがうこともありますが、それぞれ対応させていただきます。

編集部メモ

※4 ワギニスムス:腟のまわりにある筋肉が緊張などにより締まってしまう病態のこと(出典:2018年『セックス・セラピー入門』日本性科学会 編/金原出版 刊 P.59)

内診が怖くても診察可能

診察台にあがれない人でも、その人に合わせた形で診察します。診察台は緊張してしまうので、ベッド上で診察することもあります。そのほうが皆さんリラックスしています。初診以降も診察台を使わない診察をおこないますし、なかには1回も内診をしないで、治療がちゃんと終われた例もあります。

完治できる平均

3割くらいという報告が多いようです。当院に限定した話をすると、来院した人のだいたい3割が、初診だけで来なくなってしまったり、途中で自己中断してしまいます。残りの7割のうち3割が治っています。この科を始めてまだ日が浅いのですが、それでもそれくらいの方が完治しており、これからさらに完治される方の割合は増えるだろうと思います。

期間のことについていうと、順調だと3カ月という印象です。診察で指が腟に触れることができず入口で手を払いのけられてしまうほどの状態の人が、おうちでまじめにダイレーターのトレーニングもやってもらい、最終的に3か月くらいで完治した事例があります。

治療について

まずは、本人と一緒に鏡で外陰部を観察します。夫婦で来る場合は、パートナーに一緒にみてもらうこともあります。診察で医師の指が挿入可能な場合は、その後、自宅で指やダイレーターを使って挿入・拡張トレーニング、十分に慣れてきたらペニスの挿入と順に指導をしていきます。

LUNAクリニックには、骨盤底リハビリテーションというのがあります。挿入が困難な人は筋肉を緩められないことがあるので、緩めるリハビリテーションをしたりします。会陰が固くつっぱる感じの人は、お産のときのような会陰マッサージを指導してもらったりしてから、ダイレーターの練習にはいります。明らかに腟に何かが入るのに抵抗がある方や、痛みに対する固執が取れない方、パートナーとの間に問題がある方の場合はカウンセリングをうけてもらいます。

筋肉の収縮をやわらげるボトックス注射を適用することもあります。腟の、緊張して締まってしまう部分にボトックスを打ち収縮をなくして、その間にダイレーターの訓練をします。まだ始めたばかりですが、試行した方のうち1名は50日でよくなりました。ボトックス注射を用いた治療は海外では普及していますが日本でちゃんとやっている医療機関が少ないので期待できます。

出産で性交痛は解決するのか

こばやし

理由が不明な性交痛で、出産すれば解決すると希望を持つことがあります。特に筋肉をキュっと締めてしまうのが原因の性交痛は、経腟出産で緩められれば自信もついて、緊張が解ける気がします。

一般の婦人科で理由がわからないといわれた性交痛にも、ちゃんと原因はあります。その原因によると思います。お産で筋肉が断裂するので、それによって緩む可能性はあります。

ただ、内診の挿入すら難しいまま無理して妊娠してしまうと、妊娠中の診察ができないということが起きてしまいます。すると、ときに命にかかわるような診察ができないという危険があるかもしれません。一番怖いのが妊娠初期の異所性妊娠(子宮外妊娠)。できれば経腟で超音波して中を覗かないと子宮外妊娠のある/ないがわからない。本当に数週間なんですけど、そういう時期があって、過去にそういう疑いの患者さんがいたことがあったので、怖い思いをしました。ほとんどがそういうことにはならないと思うのですが。

妊娠は挿入障害を解決してからか

妊娠する権利とセックスする権利は別だと思うので、「セックスしたくないけど妊娠したい」という人がいてももちろんいいと思っています。それとは別に、挿入がイヤだから妊娠に走ってしまう人が時々います。それが良いか悪いか論じるのは難しいです。

本当はペニスの挿入があって妊娠の方向に持っていきたいんです。というのも、セックスを楽しむことで人生が全然変わると、私は思っています。そういう体験をその人たちにして欲しいなと思います。妊娠が目的の人は、妊娠・出産したらもうセックスをしない可能性があるので、セックスに対する治療のモチベーションがなくなってしまいます。できればセックスしてから妊娠に持っていけたらいいなと思っています。もちろん、それは人それぞれなので絶対ではありませんけれども。

他の婦人科で性交痛が解決しなかった理由

婦人科に行っても原因がわからないのは、その原因を婦人科医が理解していないからです。今の医学部教育だと性に関することはほとんどやらないので、セックスに関する授業がありません。あるとしても男性の勃起障害程度しかなくて、女性の性機能に関してはほぼないのです。なので婦人科医が知らないのは当然なんです。本当は婦人科の領域だと思うのですが、今の医学部教育では扱っていないです。今後は扱うようになると思うのですが、今いる婦人科医の99%以上はわからないと思います。

一般の婦人科で解決しなかった場合に行く科

ホームページや看板に「女性性機能」「性交痛」と書いているところでしか診てもらえないと思います。今のところ興味を持って性のことを学んできた医師だけしか診れないんです。

子宮内膜症で性交痛が出る、加齢により萎縮性腟炎になっているなどの場合は、一般の婦人科で治せますが、そこにメンタルの要素が加わると、途端に知識を持っている医師が少なくなります。そういう場合は「性機能」「性交痛」を診てもらえる専門のところへ行ったほうがいいと思います。

あと何故、性交痛を診る専門のクリニックが少ないかというと、診療に時間がかかることと、必要となる手技は保険点数で算定されないものばかりのため、一般の婦人科外来で保険適用の範囲で診ようとすると限界が出てきてしまう、という事情があります。

村田先生の性交痛に考え方

性交痛に限定した話ではないですが、セックスは本当にその人の全人的な営みで、その人の体や心の状況とか今まで生きてきた経験、どういった思想を持っているか、いま仕事でどんな状況か、社会的にどういう立場なのか、といったことが絡み合っていると思うんです。さらに、パートナーの状況(仕事、思想、育った環境、身体的状況)とか、更には本人とパートナーとの関係といったものが絡んでくるから、さらに複雑になる。これは、性交痛も含めたすべての性機能不全(性欲障害、興奮障害など)に関して言えることだと思っています。

だから、治療をする際にどこからアプローチするかは、その人と話をして希望を聞きながら決めていきます。例えばカウンセリングは嫌だなという場合はまずはホルモン剤から始めるなど。どこから始めても、色々な理由が絡み合っているので、ゴールにはたどり着けます。いろんな道筋があって面白いと思って私はやっています。

患者さんには成功体験をぜひ味わって欲しいと思っています。もう何もできることがないと思っていた方でも、最初は鏡で性器をみることから始めてもらったり、自分たちの性行為を客観的に振り返ってもらって、こういうのが嫌だったと発見してもらったり。近所の家から聞こえてくる声や音がうるさくて集中できなかったなんて事例もありました。診察を通じて気付けることがあります。なので、だからとりあえず、来院していただきたいです。

遠方からの患者さんも診れます

今は神奈川、東京からの患者さんが中心です。

地方からの患者さんも是非来てください。LUNAでは電話診察ができるので、初診だけ来院していただき、その後順調そうなら電話診察で対応が可能です。順調でない場合は途中で来院していただくこともできます。例えばダイレーターの2番が入らないとなれば、来院して診察でやってみようか、という流れになります。

2~4週間に1度のペースで来てもらうのが一番の基本ですが、2か月空いちゃうというような場合でも、課題をおうちでこなせるなら大丈夫です。

シリコンダイレーターWR

性交痛は治した方がいいか

セックスをその人がどう思っているかですよね。本当にセックスって人それぞれだなって思います。別にセックスしたくない人は、無理してしなくていいと思うんですよ。セックスすることで、その人が何を得られるか。これを是非おうちで考えてきてもらいたいです。

「セックスができたら自分はどうなれるのか」。パートナーとの関係はどうなのか?どんな未来があるのか?もし、セックスができなかった場合はどうなのか?というのを考えてきてくれるといいかなと思っています。

その結果、「別にセックスいらないんです」というのももちろんいいと思うんですよ。逆に、セックスができることによって何かいいことがあるのであれば、解決する方法があるので、試してもらいたいですね。

自分がどうしたいか、わからないことも

妊活とか婚活も一緒なんですけど、周りができていることを自分ができないことがコンプレックスになっている方がいます。

自分は挿入できなくてもいいんだけど、できないことがコンプレックスでそれができないと完璧な人間ではないと思ってしまう。そういう考え方は違うと私は思っています。挿入できなくてもその人はその人なんです。それで価値が上がることも下がることもありません。

できるようになること自体が治療の目的になっていると、動機としては弱いですよね。それによって自分は何を得られるか、それができることで幸せな人生の一歩を踏み出せるのか、治療した後のことを考えて欲しいんです。どんな理由も人それぞれなので、ダメとは言わないですけど。

周りがどうではなく、自分がどうしたいかをよく考えるようにすることが大事だということです。

取材と編集を終えて

こばやし

性交痛というと潤い不足と多くの方が連想されますが、今回はなかなか理解されない、挿入障害についてお話を伺えました。またなぜ婦人科を転々としても解決しないのかという疑問も解いてくれました。性機能外来があるLUNAクリニックは貴重で心強い存在です。

性機能外来を担当する村田医師の治療の軸には「本人がどうしたいか」を大事にするという姿勢がありました。本人がどうしたいかが大事というのは、「性の健康とは?対談 Vol.5」に出てくる話とも符合します。

「妊娠する権利とセックスする権利は別」ということもおっしゃっていました。このような考え方はWHOなどの複数の国際機関が共同で定める性の健康、性の権利、すなわち「誰にでもある自分らしさをそのままでいる権利」に該当します。

そういった基本概念のもとに、当事者と共に治療の道のりを一緒に伴走し、熱心に当事者の幸せを考える治療に思えました。

取材をご快諾いただきましたLUNAクリニック、そしてお忙しいなか取材にお答えいただいた村田先生、本当にありがとうございました。

LUNAクリニックの性機能外来の初診は1時間、2回目からは最長30分(10分刻み)の診察が基本で電話予約のみの受付だそうです。来院をご希望の方は、ホームページで番号をご確認ください。

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ふあんふりー編集部
ふあんふりー編集部FuanFree
WHOなどの国際機関が定める「性の健康」の概念に着目し、私たちの編集部は「痛みのない、喜びのある性生活のためにー」をモットーに掲げています。総医療監修の医師をはじめ各方面の専門家との協力を通じて、性交痛に関する信頼性の高い情報を提供しています。私たちは性の健康に対する理解を深め、読者が充実した性生活を享受できるよう、包括的で専門的なコンテンツをお届けしています。