草の根から始めよう!ポジティブに性を楽しむ国際標準の性教育!

この記事は、性教育の活動に携わる方を主な対象として書かれています。包括的セクシュアリティ教育について理解し、みなさまの活動がますますご発展する助けとなりましたら嬉しく思います。

性教育の活動に携わる方向けに、包括的セクシュアリティ教育と『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』について前後編で取り上げる2回シリーズの後編です。

前編では、包括的セクシュアリティ教育の特徴と、包括的セクシュアリティ教育の観点から見る性的同意について取り上げました。

後編では、「性を楽しむ」ことについて、性交痛と包括的セクシュアリティ教育について、包括的セクシュアリティ教育を広めていくための方策について、取り上げます。

今回もユネスコ編『改訂版 国際セクシュアリティ教育ガイダンス』の翻訳に携わった、福田和子さん、渡辺大輔さんにお話を聞きながら進めます。

お話を聴いたおふたりのこと

福田和子さん
福田 和子(ふくだ かずこ)さん

国際基督教大学入学後、日本の性産業の歴史や公共政策を学ぶ。在学中、スウェーデンに1年間留学。日本における、女性の人生の選択肢を狭める限られた避妊法や性教育の不足を痛感し、2018年5月、『#なんでないのプロジェクト』をスタート。2019年8月から再びスウェーデンに留学し、現在ヨーテボリ大学大学院で公衆衛生を専攻中。2020年、国際的にジェンダー平等を目指すSheDecidesムーブメント、Women Deliverより世界のSRHRヤングリーダーに選出される。世界性の健康学会(WAS)Youth Initiative Committee委員。

渡辺 大輔(わたなべ だいすけ)さん

埼玉大学基盤教育研究センター准教授。博士(教育学)。一般社団法人“人間と性”教育研究協議会幹事。主な著書に、『マンガワークシートで考える多様な性と生』(子どもの未来社、2019年)、『多様な性ってなんだろう?(中学生の質問箱)』(平凡社、2018年)、『いろいろな性、いろいろな生きかた』(全3巻、監修、ポプラ社、2016年)、『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』(共訳、明石書店、2020年)など。

性を楽しむという観点

柳田

前編では、日本で行われる性教育は身体のことや妊娠出産のこと、性感染症のことなどを中心に扱うというお話が出ました。日本で行われている性教育のもうひとつの特徴に、リスクヘッジ型(あれをやってはダメ、これをやったら良くない)という点があるように思います。他方で、性の楽しさや良さのようなものはあまり語られていません。包括的セクシュアリティ教育においてはどうでしょうか。

渡辺さん

キーコンセプト7「セクシュアリティと性的行動」のところに関連するものがあります。トピック1「セックス、セクシュアリティ、生涯にわたる性」というトピックになっていて、5~8歳の学習目標のキーアイデアが「一生を通して、自分のからだや他者と親しい関係になることを楽しむことは、人として自然なことである」と書いてあります。楽しむというのが最初に出てくるんです。9~12歳でも「人間はそれぞれのセクシュアリティを一生を通して楽しむ能力を持って生まれる」とあり、やっぱり楽しむと出てきます。ポジティブなところを子どもたちの学習目標にしています。

柳田

「性を楽しむ」のは良くないことのような価値観も日本にはありますが、ガイダンスの中ではポジティブなこととして扱われているのですね。

渡辺さん

また同時にキーコンセプト4.2「同意、プライバシー、からだの保全」の5~8歳の学習目標の最初に出てくる言葉は「からだの権利の意味について説明する」。権利という言葉が出てきています。セックスのことは5〜8歳のところでは出てこないですが、やはり「関係性を楽しむ」「からだは権利である」というところがちゃんと土台になって、同じキーコンセプト4.2の15~18歳以上のところでは、ジェンダーのダブルスタンダードのことや同意を示すこと、拒否することを実際にやってみる、英語でいうところのデモンストレート、いわゆるロールプレイも含めて日常生活で実際にやってみる、といったスキルの話が入っています。こうした深い積み上げがあります。

柳田

性を楽しむことをきちんと語っているうえに、それが権利であるということが明確に示されているのですね。これはとってもすごいことだと思います。

性交痛があるならNOと言おう

柳田

「性交痛」という言葉はガイダンスの中に出てきていないということですが、それは国際的には「痛い」と言ったらやめるのが常識だからなのでしょうか?

渡辺さん

他の国でもすぐにやめるかというというと、そうではないと思います。日本と同じような課題を持っているんじゃないでしょうか。

福田さん

「自分が不快だと感じる場所を触られた場合」に含まれるんですかね。でも、もっとすごいレベルのことですよね。痛いんだもん。

渡辺さん

例えば、キーコンセプト7「セクシュアリティと性的行動」のトピック2「性的行動、性的反応」では、心地よい触れ合い、不快な触れ合いといったものが土台になって、9〜12歳では「性的刺激に対する男性および女性の反応を説明する」となっていたり、12〜15歳つまり日本でいう中学生の年代では「性的刺激は身体的、心理的側面を伴っており、人々はそれぞれ異なる方法や異なるタイミングで、それに反応するものであることを理解する」、15~18歳以上で「なぜよいコミュニケーションが性的関係を向上させうるのかの根拠を示す」というところが性交痛につながっていくと思います。直接的には、性交痛って書いていないですけど、こういうところに含まれているんだと思います。

柳田

性反応についてはふあんふりーでも記事として取り上げたりしていますが、ガイダンスではそのような形で積み上げて学習する機会があるんですね!そして身体の反応という話と性交痛は確かにつながっていきますね。

福田さん

性交痛という英単語はガイダンスには出てきてませんが、さっき辞書で見つけました。Dyspareuniaとありますが、 discomfortとかuncomfortable がよく使われると書いてあります。不快(uncomfortable)なくらいで必ずNOと言っていいなら、痛いなら間違いなくNOと言っていいですよね。やっぱり楽しくなかったら、セックスする意味なくない?という温度感にみんながなってくれればいいんですが。そうなったら、痛いなんてなくなるんだけどなって。

スウェーデンもまだまだですが、やはりNOと意思表示があった場合に、それを押し通すと犯罪になるという社会規範を作ったことで大きく変わりました。ヤダヤダって最初は言っていてだんだん良くなっていくっていうファンタジーが根付いていたらどうしようもない。スウェーデンでは冗談でNOと言っても、本当に止まります。だって犯罪者になりたくないから。冗談でもNOというと聞いてもらえるくらいがいいんじゃないかなと思います。

柳田

「楽しくなかったらセックスする意味なくない?」という感覚、すごく大事ですね。前編でも取り上げましたが、20代女性の性交痛には「痛い思いをしても、付き合っているから仕方ないと我慢してパートナーに切り出せない、という問題」が潜んでいるのではないかと思うんです。楽しくないならする意味ないよねという価値観が標準化すればその問題はクリアになるし、合わせて、NOを言ってもいいんだ、NOと言われたら止まるものなんだ、という考え方が広まることも必要ですね。広めていきたいですね。

福田さん

それと、性交痛を和らげるのでしたら、潤滑剤もそうですし、ドーナツ型のリングのOHNUTを提案するというのもありだと思います。そういうものを当たり前のケアとして使っていいんだよとガイダンスに書いてあったらいいのに。ローションを使おうというのはなんとなく言い出しにくいという方も少なくないかもしれませんが、、OHNUTはパッケージを開けると「よくここまでたどり着いたね」というメッセージカードが入っていて「あなたのWell-Being大事だよ」と言われている気持ちになります。「大変だったね、頑張ったね」というエンパワーメントがあふれていますよね。

ガイダンスの広め方

柳田

さっき、「楽しくないならする意味ないよね」「NOを言ってもいいんだ」「NOと言われたら止まるものなんだ」っていう価値観を広めていきたいっていう話をしましたが、そういった価値観はガイダンスを広めていくと自然と広まるようにも思います。どういう人と連携するとムーブメントを起こせるか、広めていけるか、アクションの広げ方についてアドバイスをもらえますか?

渡辺さん

性教協(”人間と性”教育研究協議会)では、連続講座を2021年2月から始めています。性教協は民間の教育団体ですが、学校教員だけではなく、色んな職種の人がいます。先日発行した『季刊セクシュアリティ』99号では、助産師がメインになっていますし、看護師さんもいます。会員には医師、議員、子どもの保護者の方、教員も保健体育だけに限らず他の教員もいます。自分たちのできるところで、自分たちの教科で扱っています。

ガイダンスでも学校でおこなうフォーマルカリキュラムのほかに、公民館や男女共同参画センターなどでノンフォーマルなカリキュラムを行ったりもしています。そういうところで市民の人たちが、やりましょうよって声を掛けてやるのもいいかもしれません。

また、インフォーマルという言葉も使われていて、講座という形ではなく「日々のおしゃべり」みたいに日常の様々なところで扱うこともできます。様々な機会に情報発信して日常の話を身近なところで話してくれたらいいなと思います。教育というと学校と思ってしまいますが、それぞれの職種でできそうなところがあったら、勉強会を開いたりして繋がれるようになればいいなと思っています。

柳田

ガッツリと講座をやろう!と構えるばかりではなく、日々の中のちょっとした機会でもいいから、できる人ができることをできる範囲でやっていくことが大事、ということなんですね。ガイダンスを読んで学んだことを発信したり、分からなかったことを持ち寄ってちょっとしたディスカッションをしたりと、草の根的なところから始められることも多そうですね。

渡辺さん

一市民が公民館や男女共同参画センターなどで声を届けるってなかなかないことだと思います。大学生のときに社会教育主事免許を取ろうと思い、公民館実習をやっていたことがあるのですが、やはり市民の方から色んな意見がでてくると、公民館側としても嬉しいんです。もっと積極的に公民館を使ってほしい、せっかくある私たちの学びの場なので、いろんな形で使われるといいなと思います。あと若者たちが、学校外で繋がれる場所があるといいなと思います。

福田さん

ガイダンスでも学校内外というのがとても強調されていました。ガイダンス自体がSDGsとすごく絡んで書かれていて、「誰一人取り残さない」というのが重要な言葉で、それを達成するには、やはり学校の中だけでは足りない。逆に言えば、誰でも人が生きる場所で、できることがあるのかなと思います。日本に限らず、誰も取り残さないという時にどうしても性教育というと若者中心に考えられがちですが、皆に「そもそもハッピーなセックスをするのが権利だよ」「(ハッピーなセックスは)Well-Beingに大事なことだよ」「性交痛というのはもっと真摯に扱われていい問題なんだよ」というメッセージが届いてほしいし、それが権利として感じられるのは、どの世代でもとても大切なエンパワーリングなことなんだと思います。若者だけ、学校の中だけではなく、いろんな場所で、学校だけでは届かない人に届くような形で、できることってあるのではないでしょうか。それぞれがハッピーでいいんだよ、権利って思われてWHOとかが出している世界的な権威ある文書で認められているんだよということは、すごく励まされる事。エンパワーリングなことだと思います。そういうことが伝わったらいいなと思います。

柳田

学校の中だけでなく色々な場所で、誰一人取り残さないために、できることがある。本当にそうですね。そのひとつの場所として、渡辺さんが挙げてくださった公民館があるように思いました。公民館って、図書館と同じくらい身近にあるものなのに、行く機会もなかなかないし、どうやって活用したらいいのかも分からないですよね。でも、まずは「こんな講座をやってほしい」「こんなことをしてみたい」という要望を伝えるっていうところから関わりが持てたらいいですね。そのアクション自体が、ガイダンスの中に書いてある、「自分のニーズを発信する」っていうことに通じるのかも。

読者の方へおふたりからメッセージ

渡辺さん

私も訳しながらも、日々そうかぁと思ったり勉強なんです。今日も性交痛ということを意識化してくれました。今まで性交痛に関してほとんど考えてこなかったので、自分の知らないことを知るって面白いですよね。知ることで自分がバージョンアップした感じがします。学びの面白さがセクシュアリティ教育にあると思うのです。まずは私は教育学研究者なので、特に学校教育をやっているので、学校でこういうことがもっと学べて、それを地域が支えてくれたらいいなと思う。保護者にもっと興味をもってもらい声をあげてもらいたいと思います。

福田さん

性交痛って、特に終わった後に血が出てくるとか本当にテンション下がるし、つらいなと。自尊心や色んなものにまで影響し得るものだと思います。それが続くとどうしようもできない、でも相談する人もいないしあきらめる、となってしまう人も多いと思いますが、本当はそうではなくて、痛くないセックスも存在するし、そもそも痛くなくていいハズだし、「そもそもハッピーなセクシュアルライフを送ることはあなたの権利だよ」ということを色々な国際機関も言っています。権利としてそういったことを実現するために頑張っている人がふあんふりーのみなさんのように日本にもいるし、そういう存在に励まされてエンパワーメントされたら嬉しいです。ガイダンスも子ども向けと思うかもしれないけど、意外と読んでみると、25歳の今の私の年齢で読むから発見することだったり、がんじがらめなものから解放されるものがあります。ガイダンスを読むことでエンパワーされることはきっとあると思います。自分はもっとハッピーで守られていい存在なんだと、それが権利なんだと思えるように、この記事がきっかけになればいいなと思います。

まとめ

福田さん、渡辺さん、本当にありがとうございます!性交痛に悩む当事者のみなさんに向けてお届けしたこちらの記事、性教育の活動をしているみなさんに向けてお届けした前編と後編(この記事)。どの記事からもガイダンスの持つエンパワーリングな力を感じることができました。日本で包括的セクシュアリティ教育が普及するにはまだ時間がかかると思いますが、ハッピーに生きていくうえで必ず味方になってくれるものだと感じています。この記事を通じて包括的セクシュアリティ教育について知り、みなさんの活動を通じて包括的セクシュアリティ教育が広まっていってくれたら、嬉しく思います。

ABOUT US
ふあんふりー編集部
ふあんふりー編集部FuanFree
WHOなどの国際機関が定める「性の健康」の概念に着目し、私たちの編集部は「痛みのない、喜びのある性生活のためにー」をモットーに掲げています。総医療監修の医師をはじめ各方面の専門家との協力を通じて、性交痛に関する信頼性の高い情報を提供しています。私たちは性の健康に対する理解を深め、読者が充実した性生活を享受できるよう、包括的で専門的なコンテンツをお届けしています。