子宮全摘手術による性交痛

この記事のポイント
  • 婦人科系疾患やがん手術の後に、性交痛を感じることがある。
  • 術後のエストロゲン減少や、腟の深さが短くなるなどの腟内環境の変化が性交痛を引き起こすことがある。
  • 術後にセックスの再開について考えるのは、自然なこと。恥ずかしいと感じる必要はなく、違和感や不安があるなら医師に相談を。

子宮全摘手術による変化はまだまだ知られていない

子宮頸がんや体がん、子宮筋腫、子宮内膜症などの治療で、子宮全摘手術を行う人は少なくありません。

手術を終え、退院して術後1か月ほど経った頃。
医師の許可もおり、術後初めてパートナーとの性生活を再開させたときに、以前と違う自分の体の様子に気がつく……。

「セックスが痛い」「以前と感覚が違う」「濡れにくくなってしまった」
婦人科手術を行った場合に、なんらかの原因で上記のような症状がでる可能性があります。そしてそれは、残念ながらまだ広く世の中に周知されていることではないのです。

 

術後の痛みや違和感は医師に相談して

痛みを感じたり、違和感を覚えたなら、医師に相談してみてください。決して恥ずかしいことではありません。
婦人科系の手術の後に、「セックスが痛い」「セックスが楽しくなくなった」と感じる人は、あなただけじゃありません。ですから、そういう症状がある人は、もうひとりで悩まないでください。

術後のセックスの痛みのメカニズム

まずはなぜ術後に「セックスが痛い」状況になってしまうのか。
その仕組みを知り、解決または緩和するためにはどのような方法があるのかを知ってほしいと思います。

①卵巣摘出を伴う手術(卵巣がん、子宮頸がん、子宮体がんなど)
卵巣を摘出してしまったため、卵巣からエストロゲンの分泌がされなくなります。
更年期症状と同じようなことが起こります。

②腟が短くなる可能性の高い手術(子宮頸がん) 
頸部から腟の奥に広がる可能性のある頸がんでは、ステージによっては腟壁も多めにとることがあり、術後に腟が短くなります。その場合は、セックスの際に深く挿入しないことが大事です。

③良性疾患や両側卵巣は取らない手術(子宮筋腫、卵巣嚢腫など) 
手術侵襲(手術や治療による体へのダメージ)は①や②より少ないものの、傷跡やお腹の違和感など、セックスに集中しにくいこともあります。

手術の影響で女性ホルモンが低下すると性交痛に結びつく

②の場合の手術で卵巣摘出が行われない場合でも、抗がん剤治療の薬剤によって卵巣機能は低下します。それにより1と同様に治療中はエストロゲンが低下。年齢が若くても更年期に起きるような症状がでることがあります。

女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)の働きのひとつに、肌や粘膜の潤いを保つ役割があります。そのため、エストロゲンが減少すると、更年期によくある症状が若くても起こり、腟やデリケーゾーンと呼ばれる外性器まで乾燥することも(個人差があります)。
この乾燥が原因となり、たとえ性的に興奮していたとしても、セックスの際に性器の潤いが不足することがあり痛みが生じます。

また、乾燥が進行すると性器が萎縮することもあります。この場合、下着にあたったり、こすれたりなどの普段の生活のちょっとした動作でも、かゆみや痛みを感じることも。腟内が酸性からアルカリ性に傾き自浄作用が落ちるため、腟炎が生じやすくなってしまうこともあります。

手術や放射線治療後、エストロゲン減少や腟の深さが短くなるなどの腟内環境の変化が起きることから、セックスに苦痛を感じる報告が少なからずあるようです。

術後の性生活については治療を受けた病院で相談を

性交時の痛みの種類は、その人の手術や治療法で異なります。治療を受けた病院で、担当医に相談してみてください。医師に話しづらい場合は、担当看護師さんに相談してみてもいいと思います。
性生活の問題は、あなた一人の問題ではありません。パートナーと一緒に医師からの説明を聞くのもいい方法だと思います。

治療方法

エストロゲン不足の腟乾燥の対処

  • エストロゲン減少による、性器の乾燥の場合は、H R T(ホルモン補充療法)。
  • エストロゲンの腟剤や外用薬の処方
  • 保険適用外で、腟に炭酸レーザー照射治療

「性交痛がおきる」と医師に伝えて、自分に最適な治療方法を尋ねてみてください。
その他は、主治医に相談。
できれば、手術前に術後の性生活について恥ずかしがらずに主治医と相談しましょう。

工夫で、回避する方法

工夫やグッズを活用することで、お悩みを回避する方法があります。具体的にサイト内の各記事で解説していますので、参考にしてみてください。

  • 性的な興奮をしても潤い不足の場合は、よく滑る潤滑剤を選ぶのがポイント

潤滑剤(ゼリー)の選び方」でポイントや注意点をまとめています

  • 腟の短縮で奥が心配な場合、体位工夫で奥までを回避

浅く挿入できる体位

  • 挿入なしでも豊かな性生活を送れるヒント

挿入しなくてもいい、セックス ~グッズ編~

挿入しなくてもいい、セックス ~テクニック編~

 

サイトの投稿から頂いた、ご夫婦の経験談

パートナーが子宮と両方の卵巣を切除された後、二人で考え辿り着いた性生活の工夫をシェアしてくださいました。

投稿者事例:「挿入中心のセックスから転換し、より深い快感を得られるように

術後こそパートナーとのコミュニケーションが必要

セックスする気持ちになれない時は、ありのままの気持ちをパートナーに伝えることが大切です。病気を乗り越えたあなたの身体は何よりも大切なので、無理をせず望むタイミングでセックスを再開してください。

ただし、性生活の話を切り出すのは簡単ではないこともありますし、話し合っても喧嘩になることもあるかもしれません。

人間関係におけるコミュニケーションは、「相手もOK、自分もOK」が理想的です。臨床心理士・公認心理師の西田さんが、自分も相手も尊重しつつ、自分の意向を伝えられるコミュニケーション方法を記事で伝授しています。

プロに教えてもらう、心理アプローチ Vol.2 アサーションというコミュニケーションスキル

 

コンドームは欠かせません

エストロゲンが不足している状態は、腟内の自浄作用が下がる傾向にあるので、挿入をともなうセックスの場合はコンドームを必ず装着しましょう。

また、爪などで性器を傷つけないように指につけるカバー、 フィンドムも活用してみてください。

提携ショップで購入可能です。

術後のセックス、諦めたりためらったりする必要はありません

術後や治療中は、性器の違和感などの問題以外にも、その他の後遺症に悩む人もいると思います。
でも、もしあなたが「病後も変わりなく、性生活を健やかに楽しみたい」と望むのなら。「大病をしたから」と、セックスを諦める必要はまったくありません。「術後なのに、セックスのことを考えるのは恥ずかしい?」と思う必要もありません。健やかな性生活を送る権利は誰にでもあるのです。

大切なのは、無理をしないこと。
「そろそろ大丈夫かな」――そう思えるようになったタイミングで始めてみて下さい。最初は新しい体の変化で難しいこともあるでしょう。体位などで工夫できること、挿入をしないセックスの方法などもこのサイトに掲載していますので、ときどき覗いてみて下さいね。

FuanFreeで扱っている指カバー

findom フィンガーグローブ

まとめ

  • 子宮全摘手術による変化はまだまだ知られていない。子宮頸がんや体がん、子宮筋腫、子宮内膜症などの治療で行われる手術により、術後の性生活に影響を及ぼす可能性がある
  • 術後の性生活に痛みや違和感を感じた場合は、医師に相談することが大切。婦人科手術後に性的な問題を抱える人は多く、それに対して一人で悩む必要はない
  • 術後の性生活における痛みや違和感のメカニズムは、手術による女性ホルモンの低下や腟の深さの変化が関与している
  • エストロゲン不足による腟乾燥への対処方法として、HRTや薬剤治療、炭酸レーザー照射治療などが考えられる
  • 術後の性生活を健やかに楽しむ権利は誰にでもあるため、無理をせず自分のペースで進めることが重要
  • 性生活の悩みを回避するための工夫やグッズについては、サイト内の各記事で具体的に解説
  • 術後のセックスにおいては、コンドームの使用や傷つけないような指カバーの活用も大切
  • 性生活について諦めたりためらったりする必要はない。自分のペースで健やかな性生活を送る権利があることを忘れずに、無理をしないことが大切
性の健康一言メモ
性の健康一言メモ

自分の性の在り方から離れて生きられる人はいません。性の在り方はその人を形作るもののひとつです。生まれつき持っているもの、生まれてからこれまでに経験してきたもの、身に着けてきたもの。そういうひとつひとつが今のあなたを形作って、唯一無二の大事な存在であるあなたがここにいます。だからこそ、自分は何が好きか、何が嫌か、誰とどう生きていきたいのか、その人とどういうセックスをしたいのか、自分の本心を確かめてみてください。他者とのコミュニケーションは、自分のことをどれだけ分かっているかによって豊かさが変わります。セックスも大事なコミュニケーションであり、パートナーとのセックスの前に自分の本心が分かっているといいと思います。

監修:産婦人科医 早乙女 智子

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