解説する専門家
セックスってうまくできなきゃいけないの?
セックスの悩みを紐解いていくと「セックスができないことは良くないことだ」「うまくできなきゃいけない」「テクニックが必要だ」「男が女を楽しませるべきだ」といった、「べき論」に囚われて悩んでいることが多いようです。
- セックスができないことはよくないことなんでしょうか?
- セックスがうまくできるってどういうことなんでしょうか?
- テクニックって、何をどうするテクニックですか?
- 女が男を楽しませたっていいし、誰しも自分の楽しさや快楽を追求してもいいんじゃないですか?
このように考えてみると、そもそもセックスって何なんだろうか?という疑問がわいてきます。ここでは、その疑問を考えてみたいと思います。
性欲求・性行動の12段階
何がセックスなのでしょうか?そして何はセックスではないのでしょうか?挿入だけがセックス?では挿入前に相手の身体を愛撫することはセックスではない?でも、キスや愛撫もセックスだよね?ならばどこからがセックスなんだろう?
そんな疑問に答えてくれるかもしれないのが、20世紀のイギリスの動物学者デズモンド・モリスが唱えた「性欲求・性行動の12段階」理論。
もともとこれは「親密さの12段階」と呼ばれるもので、カップルが性交(性器と性器の結合)にたどり着くまでに、どういう段階を経て親密さを増していくのかを12段階に分けて考えたものです。
その12段階とは
この12の段階は、性欲求・性行動の12段階として解することもでき、相手の身体を見た瞬間から、目と目が合った瞬間から、性行動(セックス)は始まっている、と考えることだってできるのです。
性の三要素
人間の性には3つの要素(「側面」や「役割」と言い換えてもいいでしょう)があると考えられています。(性の三要素はこちらでも取り上げています)
生殖性
→生殖をするための性という側面
快楽性
→快楽を追求するための性という側面
連帯性
→相手とのつながりを確かめることでやすらぎや安心感を得るという性の側面
「セックスは生殖のためのものなのだから、結婚もしていない者がセックスなどけしからん」とおっしゃる方もいますが、それは「快楽性」や「連帯性」を否定した考え方で、人間の性の本質からは離れてしまっている部分もありそうです。
カップル間のセックスで大事な3つのこと
「セックスで大事なこと」という名目で色々な事柄が取り上げられますが、性に関する悩みを聞いていると、セックスをする当事者の間で次の3つが共有されていれば、もっとリラックスして楽しめるのではないかと思われることがあります。
お互いが了解をしていて嫌な気持ちにならない
→どちらか一方のためにもう一方が我慢をする在り方は、良いセックスにはなりません
安全が確保されている(望んでいない健康被害を伴わない)
→健康被害を伴う行為は長い目で見て良いセックスとは言いづらいことが多いです
関係のない人に迷惑をかけない
→セックスは当事者間で起こっている私的な出来事のため、望んでいない人を巻き込んだりしないようにします
正解依存症は幸せを遠ざける
「正しいセックス」をしなきゃいけない、上手にセックスできなきゃいけない、なのに自分にはできない、ということがセックスに関する悩みには一定数あるようです。
でも、セックスには正解も不正解も王道もありません。「正しいセックス」というものはありませんし、正しくないセックス(そんなものもありませんが)が良くないと決めつけることもできません。
結局のところ、ありもしない正解(「こうしておけば絶対大丈夫」というセックス)を追い求めるのではなく、「自分にとってのいいセックス」とは何なのかを自分で見出していくしかないのです。そのためには、自分は何がしたくて、何に満足するのかなど、自分自身のことをよくよく振り返って理解することです。「自分はこうしたい。これが好き」と言えるようになれば、周りが何を言っているかなんて気にならなくなってくるものです。
また、セックスのパートナーにも同じく「自分にとってのいいセックス」があります。それをきちんとお互いに伝え合い、(自分とは価値観や考え方が違ったとしても)否定せずに受け止め合ったうえで、「ふたりにとってのベストなセックスとは何なのか」を探れば、世界にひとつの、二人だけのスペシャルで楽しく気持ち良いセックスができるはずです。
上でも紹介したように、性やセックスに関して科学的には色々なことが言われていますが、「セックスとは何なのか?」という疑問については、自分自身で/自分たち自身で、「This is my/our sex」(これこそが自分にとっての/自分たちにとってのセックスだ!)というものを見つけた時に初めて、巷に溢れる情報から自由になって、セックスを楽しめるようになるのです。
柳田正芳 ・ふあんふりー監修者 ・性の健康イニシアチブ 代表
2002年、日本家族計画が活動を支援する若者向け性教育団体U-COMに加入(2002~2004年、事務局長)。2021年に「若者世代にリプロヘルスサービスを届ける会Link-R」を「性の健康イニシアティブ」として組織変更し、「性の健康」「性科学」を日本で日本語で普及推進する活動に努めるている。