挿入ができない、ワギニスムス、挿入障害などの性機能不全の治療を解説

ドクター訪問記Vol.2に登場した、女性医療クリニックLUNAネクストステージの女性性機能外来を担当する日本産婦人科学会認定専門医の村田佳菜子先生。

性機能外来という外来は、国際的な、疾病や健康問題に関する統計分類(ICD)では精神疾患に分類される「性機能不全※1」を診ています。性的な機能に課題や困難を抱えている患者さんのうち、より精神的な事柄が強く影響している方が対象となる外来なのだそうです。

実はドクター訪問記Vol.2の取材で、挿入障害※2に関連のある病気とクリニックでおこなっている詳しい治療なども聞くことができましたが、掲載しきれませんでした。せっかくなので、挿入できず悩む方たちへドクター訪問記Vol.2 番外編としてお届けしたいと思います。

日本産婦人科学会認定専門医 村田佳菜子先生

医療法人LEADING GIRLS
女性医療クリニックLUNA ネクストステージ

写真提供:女性医療クリニックLUNA ネクストステージ
編集部メモ

※1 性機能不全:性的な機能の疾患の総称
※2 挿入障害:様々な理由で挿入を伴なうセックスができないこと

挿入障害に含まれる病気

まずは挿入障害に関連のある病気について詳しく教えてもらいました。ふあんふりーの「構造的な症状」でも解説している「処女膜強靭症」、見分けるのが難しいといわれる「ワギニスムス(腟けいれん)」と「腟前庭痛」を紹介します。

処女膜強靭症

処女膜強靭症は、挿入障害の10%未満と言われています。挿入障害や性交痛の原因としては多くなく、私が診療させていただいた患者さんの中には、処女膜強靭が原因で、処女膜切開を行った方はひとりもいません。処女膜は、腟の入り口から全周性に広がるカーテンのような(切れ目のない、排水溝のゴム蓋のような)構造で、そこに一か所でも切れ目が入れれば「処女膜が破れた」といえます。処女膜切開も、基本的には処女膜の右端と左端にちょんちょん、と切れ目を入れるだけの処置になります。処女膜強靭症で手術しても挿入ができないと来る患者さんがいらっしゃいますが、本当の原因は処女膜強靭症ではなくて、その奥にある筋肉(球海綿体筋や肛門挙筋)がキュっとなることがほとんどだと考えています。

診断された結果、切る必要がある場合は別ですが、処女膜はもともと切れていないものですし、自然と切れるものなので、切れていないからといって切る必要はありません。

術後も入らなければ、処女膜強靭症ではない可能性が高いので、来てもらったほうが良いと思います。挿入障害ですので治療を受けていただけると良いかと思います。

ワギニスムス(腟けいれん)

ワギニスムスは、病態的には、処女膜のちょっと上の球海綿体筋という筋肉と肛門挙筋がきゅっとなってしまって挿入ができないという病態です。実際に指を入れてキュっとならなければ診断できないんです。

しかし、腟の入り口ですでに入らないという人たちが、患者さんの全体の半分ぐらいなので、「ワギニスムス疑い」ということで診療を進めていきます。ワギニスムスは挿入に対する恐怖や緊張というのが大元にあります。

腟前庭部痛とは違う病態です。腟前庭は外側の腟の入り口部分で、ワギニスムスの原因となる筋肉とは異なる場所になります。しかし、ワギニスムスの方も多くは腟の入り口を触っただけで「痛い」と表現され、この2つを見分けるのは難しい場合があります。診察で触れていきながら「これは痛いですか?」と聞いていくと、「あれ、“痛い”という感覚ではないかもしれない」となることがあります。痛いと脳で勝手に判断してしまっている場合が結構あるので、見分けるのは難しいと思います。

性機能外来が診るもの

処女膜強靭症やワギニスムス(腟けいれん)、腟前庭痛といった挿入障害を含め、性的な機能に関する課題や困難を診察するのが性機能外来です。

受診される方のお悩み

性やセックスに関わる問題を抱えている方であれば、どなたでもいらしていただけます。「夫と性的な行為を持てない」という主訴の方もいます。女性の「性欲低下」の原因が男性側の射精障害にあった場合もありました。ただ、現在は挿入障害の方が多く受診されています。

こばやし

性機能不全は精神疾患に分類されているとおっしゃっていましたが、心に痛みの原因があるというのは意外だし、心当たりがなければ患者さんは「え?」という反応になりませんか?

今のところ来院される方は、挿入が怖い、緊張するなど、ご自身で自覚し診察時に伝えてくれる人がほとんどなので、納得いかないとか、説明を求めれたりすることはないです。診察時にお話ししていく流れで自然と納得される方が多いです。

誰しも最初の時はペニスの挿入が怖いという気持ちが少なからずあると思うんです。挿入を想像するだけで緊張するという人もいます。もちろんなかには「全然緊張していないのに痛いんですよね」という人もいますけど。

挿入または痛みに対する予期不安というのも含まれますが、本当は痛くないはずなんです。「痛いことがあって予期不安でちょっと触っただけで痛くなっちゃうことがあるんだよ」「脳が勝手に痛いと判断していることもあるんだよ」とお話して気づいてもらいます。実際に私が診察で触った時に「あ、痛くないかも」となれば、「今まで痛いと思っていたのは勝手に思い込んでただけなのかも」と納得いただけたりします。だから、「こんなことことがあなたの体に影響しているかもしれないね」と話し合って紐解いていくような感じです。

予期不安は「こころが原因の性交痛」でも解説しています。

こばやし

未完成婚の相談にも乗っていただけるのでしょうか。

未完成婚は状況により様々な原因が考えられると思いますが、最も多い原因が挿入障害によるものではないでしょうか。患者さんの中には、「未完成婚」と問診票に記載する方もいらっしゃいます。挿入障害が原因じゃなくて、「夫とはそういう気持ちになれないんです」というご相談もあります。基本的に私は挿入障害を一番よくみていますが、他の相談でも全然かまいません。夫が勃たないなどで来院されてもかまいません。

性機能外来での治療

セックス全般の相談にも答えてくれるという村田医師。とても心強い存在です。その村田医師は性機能外来でどのような治療をおこなっているのでしょうか。

患者ごとに異なる治療内容

症状によって治療が異なるほかに、患者さんが「その治療はムリ」と感じたら違う選択になるし、逆に医師が「この人にはこの治療はムリそうだな」と判断することもあります。患者さんに合う治療を探りながら決めていきます。

患者さんの中には「自分は奇形で腟がない」と思いこんでいる人もいます。診察では、実際に鏡でご自分の外陰部を見ていただいたり、医師の指を挿入して性器の構造に異常がないことを確認していただくこともあります。また夫婦で来る場合は、パートナーに一緒にその様子をみてもらうこともあります。その後、例えば、指やダイレーターを挿入する練習をして、慣れてきたらペニスの挿入、と順に指導していきます。

他にも、

  • 筋肉を緩められない人には、骨盤底筋トレーニング
  • 会陰が固くつっぱる感じの人には、会陰マッサージの指導
  • 腟に何かが入るのにどうしても抵抗がある人、パートナーとの間に問題を抱えている人、痛みに対する固執がとれない人には、カウンセリング

といった対応もしています。
また、当院ではボトックス注射を使った治療もおこなっています。これは海外では行われていますが日本ではまだこれからの治療法です。効果も出ているので今後期待のできる治療法だと考えていますが、診察の結果ボックス治療に向いていない人もいます。必ずボトックス注射を受けられるとは一概には言えません。

カウンセリングで心理にアプローチすることも

カウンセリングは、必ずしも必要ではありません。まずは鏡で外陰部を見る、指やダイレーターを挿入するなどの行動療法を行いますが、明らかな性的外傷経験がある、痛みに対する固執が強い、ダイレーターが1本も入らないなどの事情により、カウンセリングを先に受けてもらう方もいます。その人の事情に合わせながら進めていきます。

LUNAでは初診で1時間設けています。初診のときは、30分前に来ていただき問診票を書いていただいています。細かい質問表なのでそれに記入していただいて、その後に診察を60分します。

質問票とその人の状況により様々な質問をしていきます。ひとりで来てもカップルで来ても、その人に合った質問をし、臨機応変にどこを深堀りしていくか決めていきます。

話を聞きながら、ご本人と一緒に状況を把握したら、今度はゴールの設定をします。その人がご自分のセックスをどうしたいかを考えてもらいます。できたら初診時はパートナーが一緒に来ているとよくて、パートナーの希望も聞いていきます。本人がセックスしたくなくても、パートナーがしたい場合もあります。こうした場合は、お二人のセックスをどうしたいか、折り合いをつけていくことも必要になっていきます。

ゴールを作った上で、そのためにはどうすればいいか。ひとつひとつの治療を一緒に考えていく感じになります。そういう話を初診にするので、結果的にはカウンセリングっぽくなっています。

カップルで治療することが大事

夫婦で受診されるのがいいと思います。日本性科学会の大川前理事長も同じことを言われています。「旦那さんが一緒に来ない人は治らない」と。私の診察ではパートナーの方が1回も来なくても治った人がいるので、絶対ではないと思いますが(笑)。でも協力体制としてはひとつの指標になるとは思います。

妊活でもそうなんですけど、問題が女性側にあると思っている人が結構いて、それが女性側に負担になっていることがあると思うんです。ふたりの問題なんだよというのをパートナーにも理解してもらう必要があると思います。パートナーも指が入るか信じられないという人もいるので、診察時に指が入っていることをパートナーに確認してもらうこともあります。

シリコンダイレーターWR

取材後記

こばやし

いかがでしたでしょうか。ドクター訪問記Vol.2の取材の際に村田医師がお話してくれたLUNAクリニックの診察の内容は、なかなか知ることのできない貴重な情報だったので、こうして別コラムでご紹介しました。

ドクター訪問記Vol.2で村田医師が教えてくださった通り、日本には女性性機能に関する専門家が少なく、治療できるところが多くありません。そのため、診てくれる専門外来がどんな治療をしているのか未知の世界でした。

この記事が似た悩みを持つ皆さんの参考になればいいなと思います。

取材をご快諾いただきましたLUNAクリニック、そしてお忙しいなか取材にお答えいただいた村田先生、本当にありがとうございました。
LUNAクリニックの性機能外来は電話予約のみ。来院をご希望の方は、ホームページで番号をご確認ください。

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ふあんふりー編集部
ふあんふりー編集部FuanFree
WHOなどの国際機関が定める「性の健康」の概念に着目し、私たちの編集部は「痛みのない、喜びのある性生活のためにー」をモットーに掲げています。総医療監修の医師をはじめ各方面の専門家との協力を通じて、性交痛に関する信頼性の高い情報を提供しています。私たちは性の健康に対する理解を深め、読者が充実した性生活を享受できるよう、包括的で専門的なコンテンツをお届けしています。