無事乳がん手術を乗り越え、放射線治療などの副作用と付き合いながら始まる新たな生活。
日々いろんなことに調整が必要で、術後の生活は馴染むまではほんとうに大変だと思います。
術後の自分の体や、治療にも少しずつ馴れてきた頃……性生活について考えることもあるかもしれません。
「もうセックスしても大丈夫かな?」
「先生に相談したほうがいいのかな?」
「治療中なのに、セックスの話をしたら、変だと思われるかな?」
外来診療という短い時間の中で、お医者さんや看護師さんに自分の性生活について相談することをためらう人は多いのではないでしょうか。
この記事は2020年7月のふあんふりーリリース時に公開されたものですが、2022年に乳がんを経験した方を対象に実施したアンケート調査の結果を追記し、2023年2月に再リリースしました。
- 乳がん治療中の身体とセックスの変化に戸惑ったなら、恥ずかしがらずに医師に相談を。
- 化学療法とホルモン療法中は、エストロゲン分泌が減少することも。
- 治療中はホットフラッシュや気分の落ち込みなど、更年期と同じような症状が出ることも。
- ボディイメージの変化(※)から、性に消極的になることも。
- 性交により、病気の再発や悪化するかもしれないという心配で、性生活を躊躇することも。
- 話し合いを試みたが解決に至らないときは、アサーションというコミュニケーションスキルの活用法も。
- パートナーと話し合いを希望する内容は多岐にわたりました。
(※)自分の体形が変わってしまうことでネガティブな気持ちになること
目次
アンケートを行いました
2022年に、神奈川県内のある病院で、医師協力のもと乳がんを経験した方々にアンケートを行い、8割の方から回答を得ました。集計結果の一部をこの記事内の解説中で紹介します。
アンケート結果:性生活に悩んでいる期間
乳がんを経験した方が性生活について悩む期間には個人差がありました。
なお、「悩みがない」と回答した54%の方の中にも、他の質問への回答から、病気とは関係ないものの性の問題を抱えている人もいる様子が伺えました。
性生活に影響を及ぼす薬物療法がある
すでに皆さんは医療機関で説明を受けているかもしれませんが、ここでは性生活に影響を及ぼす薬物療法について触れていきたいと思います。
長く薬物療法と向き合わなければならないとしても、できるだけ不安を排除して性生活を楽しんでほしい――ふあんふりーはそう考えます。
そこで、医療機関では説明がされないような情報やアイテム、工夫次第で心地よく性生活を続けられるヒントをお伝えすることを考えました。
化学療法
化学療法、いわゆる抗がん剤治療では、薬剤によっては卵巣への作用が高く、卵巣機能を低下させることがあります。
卵巣機能が低下したサインは、月経が止まること。卵巣機能が低下すると、エストロゲンの分泌が抑制され、それが原因で性交痛が起きることがあります。
普段の生活でも、「おりものが少ない」「下着がこすれる」「生理直後の腟の中が乾いた感覚」など、乾燥からくる性器回りの違和感がある人もいます。
ホルモン療法
乳がん治療は「手術すればそこで治療が終わり」ということはまずありません。そこから新たな再発予防のための補助療法が始まります。
標準的な治療として、ホルモン受容体陽性の乳がんの場合は、術後5~10年間のホルモン療法を行います。
ホルモン療法で、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌を抑制または産生を阻害してしまうと、ホットフラッシュなどの更年期と同じような症状が起こることがあります。
エストロゲンの分泌が抑制されてしまうと、腟の潤いが減少して腟壁の弾力が失われ、それが原因で性交時に痛みを感じる人も。もちろんこれらには個人差があり、さほど症状が出ない人もいます。
「更年期の年齢じゃないのに、更年期みたいな症状が出るのはどうして?」「ホルモン療法を始めたら、急にセックスが痛くなった」と、不安を感じたら、我慢をせずに医師に相談してみてください。
手術やホルモン療法で性欲低下が起こる?
手術や手術後の治療によって性欲が低下することを心配する方もいます。
複数の調査や文献で「手術前よりも性欲や性に対する関心が失せた」という乳がん手術の経験者の声が確認できます。
その理由として次のようなことが紹介されています。
- 服を脱ぐことへの抵抗感や胸を圧迫されることへの恐怖が、性への向き合い方を消極的にさせる
- 女性の性欲は卵巣とそこから出てくるホルモンが関係しており、手術後の薬物療法で卵巣機能が低下して性欲低下やオルガズムが得にくくなるといったことが起こる
治療後の性生活が病気の再発につながるか
セックスでホルモンが増えることや、それによって病気が悪化することはありません。病気の再発につながることもありません。ただし、患部のコンディションは一人ひとり違うと思いますので、心配なことがあればすぐに担当医に相談するようにしてください。
参考文献:患者さんのための乳がん診療ガイドライン2019年度版 日本乳癌学会編 金原出版
化学療法中に用いると効果的なアイテム
性交時の痛み、医学的には性交疼痛といわれますが、これには潤滑剤や腟座薬などが効果的。
化学療法中で特に感染や出血など気をつけなければならない点は、以下になります。
- 爪などで皮膚を傷つけない(市販の指用カバーを使用するという選択もあります)
- 腟内を石鹼などで洗浄しない
- 性感染症予防のため、コンドームを必ず使用する
潤滑剤を使用する場合は、粘り強いアダルトローションではなく、粘度の低いサラサラしたタイプの潤滑剤を使うようにしましょう。
指カバー
カバーをすることで、爪のひっかかりなど気にしなくてもよく、直接触れない安心感も得ることができます。
FuanFreeで扱っている指カバー
findom フィンガーグローブ
柔らかなな素材のコンドーム
乾燥で腟がヒリついて、コンドームの擦れが気になるときは、肌あたりが良く、やわらかな特殊素材、アイアール(IR)、イソプレンラバーと呼ばれる素材のコンドームもおすすめです。
SKYN
潤滑剤の選び方
性器が乾燥したり萎縮している場合は、潤滑性に優れたものを選ぶのがポイントです。また誤ってアダルトローションを選ばないように注意が必要です。
術後や治療中はボディイメージの変化に悩む
また、治療中はホットフラッシュや気分の落ち込みなど、更年期と同じような症状がでる人も。また術後のボディイメージの変化もあり特に性交痛を感じなくても、性生活に消極的になる人もいます。
アンケート結果:罹患後の性生活に関する不安
実際に乳がんを経験した方の多くは「ボディイメージの変化」と「パートナーの変化」に悩んでいました。
アンケートに回答した方の半数(50%)がボディイメージの変化に対する不安があることを挙げています。ボディイメージつまり自分自身の身体に対するイメージが乳がんを経て変わってしまい、それを自身が受け入れられないことや、パートナーにどう思われるのかを不安に感じるということです。
ボディイメージが変わると、変わってしまった点(失ってしまったもの)に目を向けて憂鬱になりがちですが、今ある素敵な部分や魅力的な部分を見つけて、鏡に映して目で見ながら口に出して繰り返し褒めることで、少しずつポジティブな気持ちになっていけるそうです。
ボディイメージの変化に対する不安の次に多くの回答が寄せられたのが、「パートナーの変化」でした(回答者の33%が挙げています)。
パートナーにはパートナーの意思や考え、価値観があり、他人がコントロールしたり影響を及ぼしたりできる範囲は極めて限定的です。だから、パートナーとしっかりコミュニケーションを取って、考えや気持ちを通じ合わせたいところですが、簡単にいくことばかりではありません。
実際、アンケート結果からも、パートナーとのコミュニケーションに苦労している方が大勢いることがうかがえました。
性生活についてパートナーと話し合う難しさ
話し合ったことがない方がほとんどでした。また、話し合いを試みた方はいずれも解決に至りませんでした。
アンケート結果:治療後の性生活についてパートナーと話し合ったか
パートナーとのコミュニケーションの難しさを感じます。パートナーと性生活に関する話ができないことは必ずしも悪いことではありませんが、「性生活のことを少しでも気にしている」「本当は話しておきたい」「やっぱり性生活は必要」といった想いがある場合は、話せるほうがよいはずです。
話し合いの助けになる、アサーション
そういう時に役立つのが「アサーション」というコミュニケーションスキルです。簡単にいえば「私もOK、あなたもOK」な状況を目指すためのコミュニケーションです。
自分と相手の考えていることやニーズ(「こうしたい」と思っていること)は、一致しないことも少なくありません。そんな時には、「自分が我慢をして相手を立てる」のでも、「自分だけがOKで相手に我慢を強いる」のでもなく、自分にとっても相手にとっても無理なく受け入れられる状態を実現するのが、良い関係性を長く続けていく秘訣になります。
そのためには、
- 「自分さえ我慢すれば」という発想を辞める
- 「あなたは○○だ」「あなたに○○してもらいたい」と相手を主語にした話し方を辞める
- 「私は○○なんだ」「私は○○したいんだ」「私は○○だと嬉しいのだ」と自分を主語にした話し方を心がける
といったコツがあります。
また、パートナーとのコミュニケーションを振り返ってみると、うまくいかないときはだいたい同じパターンを繰り返して失敗しているものです(例えば「どちらかが不機嫌になる→相手が気を遣う→ますます不機嫌になるが理由を説明しない→相手はどうすればいいのか分からなくなってその場を離れてしまう→時間が経過したことで機嫌が直る。次回同じような場面でまた同じパターンに」など)。こういうパターンが掴めたら、「不機嫌になりそうな時に感情のコントロールをつける」「相手にきちんと理由を説明する」など、いくつかの対策が立てられるはずです。
コミュニケーションスキル、アサーションについては、「プロに教えてもらう、心理アプローチ Vol.2 アサーションというコミュニケーションスキル」で詳しく解説しています。
セックスはふたりが楽しめれば何でもアリ
映画やドラマでみるようなセックスだけが、正しいわけではありません。
ふあんふりーは、カップルの数だけ、セックスのスタイルはあっていいと考えています。
挿入・射精だけがすべてではありません。
パートナーと抱き合う、触れ合うだけでもいい。
それもセックスと言えるのではないでしょうか。
もう一歩進んだとしても、挿入せずにグッズを活用したりしてオリジナルな楽しみ方をするのもアリです。
年齢や体の変化に会ったスタイルを作れます
サイトの投稿から頂いた、ご夫婦の経験談
読者の方から寄せられた実例をご紹介します。奥様が子宮がんになり、その後、性生活についての対話を重ね、二人はより深い愉しみ方へと転換されました。
パートナーと話したい内容
パートナーとの話し合いを希望する内容は多岐に渡りました。
- 性交渉の回数 12.5%
- 求める理由 4.1%
- 求めてこない理由 16.6%
- 挿入を伴わない性交渉 0%
- その他回答:いつから性交渉するか 4.1%
- その他回答: 性的な対象になるか不安、体の傷について 4.1%
- 無回答/特になし 66.6%
おわりに
セックスしたい気分になれないときは、無理をしないことも大切。
「相手が望むから」「相手の気持ちにこたえたいから」と、パートナーのためだけに頑張る必要はありません。
あなたの身体と気持ちを大切にしてください。
まずは、上記でご紹介したコミュニケーションのスキルも活用しながら、パートナーに自分のこころと身体の状況を伝えることを始めてみませんか?
セックスはふたりで楽しむものであり、不安や注意が必要な場合は、パートナーに対して率直に話すことが大切です。一緒に乗り越えることで、より強い絆が生まれることでしょう。あなたの健康と幸福を最優先に考え、無理をせず、愛情あるコミュニケーションを大切にしてください。とは言え、実践は難しいもの。気を背負わず、取り入れたいものを参考にしてみてください。
医療監修:産婦人科医 早乙女智子
監修(性の健康):柳田正芳(性の健康イニシアチブ)
編集:6483works
回答年齢
30代:25%
40代:54%
50代:20%